社外取締役メッセージ

取締役(社外取締役)岡本 毅

取締役(社外取締役)岡本 毅

高い自己変革意欲がガバナンス改革を実現した原動力

当社は、2016年の指名委員会等設置会社への移行をはじめ、委員会構成や社内・社外取締役構成の見直し、報酬制度の改定、自己株式の取得・消却をはじめとした柔軟な資本政策の導入など、様々な点で弛まずにあるべき方向に歩みを進め、着実にガバナンス体制の改革に取り組んできました。その背景には当社に根付く「自己変革意欲」が大きく影響していると思われます。

引き続き、取締役会にはモニタリング機能の強化や多様性・独立性の高度化が求められますが、当社の現在のガバナンス体制は、そうした要請に十分応えられるものになっていると自負しています。例えば長期経営計画のモニタリングにおいても、継続的に個別戦略ごとに執行側から詳細な説明が行われ、それをベースに取締役会で密な議論が行われています。また、取締役会のメンバーの多様性、独立性も十分に担保されています。

ただし、現状に満足してはいけません。内外の情勢は変化し続けるに違いなく、外部からの要請も情勢変化に呼応して常に変化していきます。今後更なる対応が求められますが、当社には前述の通り、高い自己変革意欲があり、必要に応じた改革を行うことに躊躇することはありません。更なるガバナンス体制の高度化に向けて確実に歩みを進めていきます。

委員会の強い責任と権限を意識し、その使命を果たす

現在の当社には、指名・監査・報酬という3つの委員会が存在します。それぞれが十分に役割を果たすことで、当社の経営監督・モニタリング機能に直接貢献しています。特に、指名と報酬の両委員会は独立社外取締役のみで構成されていますので、独立性や議論の客観性はより高いレベルで担保されていると言えます。

また、各委員会は、それぞれの責任を保ちつつ、取締役会において委員会における議論の内容などを報告することとしています。その報告に基づく取締役会での議論が委員会にフィードバックされる。そうしたループが取締役会と各委員会の関係を強化させ、経営監督の有効性を更に高めていくものと考えます。

私は指名委員会の委員長を務めていますが、指名委員会は取締役選任議案を決定するという極めて重い責任・権限を有しています。そのため、指名委員会で決定する事項は、株主総会でご承認いただけるものとすることはもとより、すべてのステークホルダーの皆様にご納得いただけるものでなくてはいけません。社外取締役だけで構成される指名委員会において、社内の候補者を見極めるのは容易なことではなく、そのために相当な努力が欠かせません。社内取締役との情報量の差は少なからずありますが、それを前提条件として覚悟した上で、必要な情報を収集しながら、社外取締役の立場として 、何が取締役にとって最も重要な資質であるかという基軸を定めつつ選考を進めていきたいと考えています。

また、こうした選考を進めていく上で、スキル・マトリックスは大切な指標であり大変有意義なものです。取締役会が経営監督機能やモニタリング機能を適切に発揮するために、必要なスキルを構成していくわけですが、それについても委員会で議論を重ねていますし、既存の取締役候補者選任基準との整合性も意識しながら検討しています。スキル項目に何を選ぶかは大変重要であり、また、多様性についても意識していかなくてはいけません。様々な立場や考え方のメンバーが参画することで、取締役会や各委員会の議論が活性化し深まるという意味でも、多くの切り口から最適解を検討していきたいと思います。

長期経営計画のレビュー&アップデートの実施

ここ数年の世界情勢の変化は極めて大きいものがあり、まさに「変化への対応力」がかつてないほどに問われる時代になっています。これは今後も変わらず、取り巻く情勢の変化が急速に進むことを覚悟した上で、これに遅滞なく対処し、その先をも見据えた事業展開を進める必要があります。取締役会としても、そうした見地から長期経営計画を推進しつつ、適時適切な見直しが行われるようモニタリングしていくことが求められます。

2023年度に長期経営計画のレビューを行い、「社会価値向上戦略」と「株主価値向上戦略」の両輪は揺るがすことなく、計画内容についての意義の明確化やテーマの絞り込みなどのアップデートを行いました。その中で、「株主価値向上戦略」においては、KPI等ゴールまでの道筋、戦略の一部並びに配当金や自己株式取得等に関する株主還元方針等に関して見直しを行いました。また、「社会価値向上戦略」では、当社グループ事業をサステナビリティの観点から解きほぐし、マテリアリティの再整理を行いました。その結果として、当社グループのコア事業である、不動産に関わるハード・ソフト双方の事業推進が社会価値向上に寄与することを明確化しました。これはとても重要かつ意義深いことだと思っています。従業員にとっては、自らの仕事の推進・完遂こそがサステナビリティにつながっていると自信を持つことができます。今後も経営陣や従業員の皆さんとの対話、あるいは会社・グループと外部ステークホルダーとの対話などの積み重ねで、更なる長期経営計画のバージョンアップ及び達成を目指していきます。

社外取締役に求められる企業価値向上への関わり方

前述の通り、企業を取り巻く環境変化の潮流は極めて速くなっています。「変化に適応できるものだけが生き残る」という進化の原則に例外はなく、その変化を乗り越えて次のステップへ進むことができるかどうかを追求していくことが重要です。

当社は大手町・丸の内・有楽町エリアという長い伝統に裏付けられた強固な経営基盤を有しています。この強みに甘えるのではなく、この強みをベースとして、次なる時代への大きな変革を進めていかなくてはいけません。それには広い視野を持ち、国内外における変化の潮流をしっかりと捉え、これに対応していく必要があります。当社は、そうした気概を持って様々な施策を打ち出し、新たな潮流を巻き起こすことができる企業であると思います。その過程で生じるリスクをいかにマネジメントし、最適な事業ポートフォリオを構築していけるか。これこそが社外取締役として目指すべき基本的なスタンスであると考えています。

私は国内外で多様な事業を展開するエネルギー企業の経営に長く携わり、また、日本経団連において6年間役員を務め、多くの企業経営者と交流を重ねてきました。その中で、日本、世界の経済・社会の在り方について、多くの提言を行ってきました。申し上げるまでもなく、不動産事業について私が得られる知見には限りがあります。一方で私がこれまでに得た様々な経験や考え方などを活かし、外部の視点を持って、当社グループの企業価値の向上に貢献していく。それが私の役割であり責任であると考えています。

2024年8月

取締役(社外取締役)成川 哲夫

取締役(社外取締役)成川 哲夫

日本のガバナンス改革と当社のガバナンスの進化について

日本のコーポレートガバナンス改革は、2014年の会社法の改正と2015年のコーポレートガバナンス・コードの導入により大きく進展しました。私は2018年に当社の社外取締役に就任しましたので、まさに日本のガバナンス改革の歩みに合わせて当社のガバナンス体制の整備・強化が進んでいくのを目の当たりにしてきたと言えます。これまでの当社のガバナンス改革は、指名委員会等設置会社への移行や取締役会の多様性の推進、長期経営計画との連動性を高めた役員報酬制度の改定、スキル・マトリックスの開示など、実に多岐にわたりますが、特に2023年6月から、社内取締役を1名減じて、社内・社外取締役を7名ずつの同数としたことは、企業経営に携わってきた私から見ても非常に大きな1歩であり、重要な決断であったと思います。

日本のコーポレートガバナンス改革はいまだ進行中ではありますが、日本企業がグローバル社会での存在感を高め、新たな価値創造を実現していくには、世界標準となった経営体制のベストプラクティスが浸透していく必要があると考えます。しかし、この点について私自身としては前向きに捉えています。2014年の会社法改正、2015年のコーポレートガバナンス・コードの導入からここまでのわずかな期間で、日本企業のガバナンス体制が急速に進化したように、いったんスタートしたら急速に広がっていくと確信しているからです。従来日本には、企業という存在が長期的な観点からの価値創造や社会課題の解決を担う、社会的存在であるという認識が歴史の中で根付いていますので、こうした価値創造を実現するための制度がなじみやすい環境であると言えるのです。

幅広い業務範囲をカバーする監査委員会の仕組み

監査委員会がカバーするべき業務範囲は広く、様々なリスクや課題に対する監督責任を担っています。そのため、プライオリティをつけて、重要度と緊急度の高い課題から重点的に議論するという、業務の優先順位付けが委員長である私の役割の一つとなります。また、議題によっては委員会の時間外で関連情報の収集と調査を行った上で、次回の委員会で見解を出すといったことを心掛けています。報告を受けるリスクや課題については、予断を持って判断せず、事実確認と影響の大きさなどを適切に判断するためにも、幅広い知見と経験を有する各監査委員のご意見を聞いた上で、最終的に監査委員会としての見解を出すということに努めています。こうした判断を下すための事前準備については、社内出身者である2名の常勤監査委員の力が必要不可欠です。常勤監査委員は、事前に経営執行サイドや管理部門、営業現場と連絡を取り合い、特定の課題や進捗状況のみならず、グループ全体の広範な情報を収集・提供してくれます。それらは非常に詳細かつ率直、公正な報告と意見であり、適切な判断をするために有益なものとなっています。こうしたことから、当社の監査委員会体制は非常に高度な機能を有し、その実効性についても申し分ないものになっていると確信しています。

株主・投資家の皆様にもわかりやすい指標で戦略進捗を共有する

私が社外取締役に就任してから、何よりエポックメイキングだと感じたのは、「長期経営計画 2030」を策定したことです。これは、当社グループの「超長期視点でのまちづくりと時代を先取りするDNA」という強みがあるからこそ可能になるものであり、市場と株主・投資家の皆様からのサステナブルな要請に応えるものであると言えます。取締役会での議論についても、進捗状況や経営環境の変化が計画に与える影響、計画修正の必要性や将来を見据えた大規模プロジェクトに関する議論などに集中することができています。更に、コロナ禍やウクライナ危機を契機とした我々を取り巻く環境の大きな変化を踏まえると、取締役会の機能発揮や企業の中核人財の多様性確保、サステナビリティ課題への対応をはじめとするガバナンス諸課題についても、スピード感を持って改めて取り組むことが重要になると考えています。特に海外の株主・投資家の皆様からの関心が高い「Pay for Performance*」という考え方に沿った報酬体系については、成果が報酬にいかに反映されているか、わかりやすく説明していく必要があります。成果の指標としては、例えば当社の役員報酬制度でも一部採用している、TSRでモニタリングすることも有効であると考えます。業績だけでなく株価を含めた経営指標となりますので、日本においても株主価値の指標として注目度が上がっており、取締役の報酬額を決める際の重要な指標になってくると思っています。

また、「長期経営計画 2030」に定める社会価値向上戦略において、当社のサステナビリティの取り組みは、環境をはじめとして非常に高い成果を出していると認識しています。ただ、私はこうした成果をもっと株主・投資家の皆様にアピールするべきだと思っています。より明確で理解しやすい具体的なKPIの策定や外部機関からの評価について、継続してアピールしていくことが重要です。株主・投資家の皆様との友好的な関係を長期にわたり維持し「共創的な関係」を構築するためにも、建設的な対話は必要不可欠であり、サステナビリティ、ESGの取り組みの成果について、株主・投資家の皆様に納得していただける目標を共有していくことが必要不可欠となります。

* 業績の達成度に応じて報酬を決定する方法、給与体系。          

不動産開発業での経歴を当社の企業価値向上に活かしていく

私は過去、不動産開発業に10年以上携わった経験があり、その前には15年以上ドイツで暮らし、その中でオフィスビルの開発にも関わることがありました。ドイツのまちづくりは、オフィスも住居も環境に寄り添い、かつ人間として生活を第一優先に考えるという姿勢が強く、統一的かつ非常にサステナブルな形で考えられています。そうしたまちづくりを、国が方針を決めて、委託を受けた地方公共団体がマスタープランを定め、不動産会社がそれに沿ってモノを作るという構成で進められていました。一方、日本の場合は、当局は規制を定めるまでで、その範囲内で不動産会社がまちづくりそのものを担うという建付けになりますので、まちづくりに対する責任感は全く異なります。そうしたビジネスモデルの特殊性を海外の株主・投資家の皆様に理解してもらうことも重要だと思います。

私にできることは、こうした不動産に関わってきた経歴を踏まえ、当社の取り組みを後押ししていくことだと考えています。また、様々な変化を見据え、それを先取りした取り組みを進めることが重要となりますので、その基盤となるコーポレートガバナンスの改革にも深く関わり、当社の将来の成長に少しでも貢献していきたいと思います。そのためにも、取締役会や経営陣の皆様だけではなく、当社の将来を創造する若手社員とも積極的にコミュニケーションを取り、私の経験を共有していきます。

2023年8月

取締役(社外取締役)白川 方明

取締役(社外取締役)白川 方明

取締役会のダイバーシティを推進することがリスク低減につながる

私は2016年6月に当社の社外取締役に就任しました。当社を取り巻く過去20年近くの経営環境を振り返ってみると、グローバル化の更なる拡大、テクノロジーの進展、地政学的リスクの高まりなど、実に様々な大きな変化がありました。

当社は、このような環境変化の中にあって、ガバナンスの仕組みの進化に積極的に取り組んでいると思っています。私が取締役に就任した2016年に指名委員会等設置会社へと移行しましたが、以後も3つの委員会の全委員長を社外取締役にし、また各委員会メンバーの半数以上を社外取締役で構成するなど、社会の要請に合わせてガバナンスの在り方を見直す姿勢が強いと感じています。

取締役会や各委員会が正しい決定に到達するのを妨げる最大の敵はメンバーがモノカルチャーに染まることです。その危険を小さくするためには、ダイバーシティを意識的に確保することが何よりも大切です。当社の社外取締役のバックグラウンドを見ると、私の場合はマクロの経済・金融ですが、企業経営に携わった方、ESGやコンプライアンスの専門家をはじめ実に多様であり、社会との接点も広くタイムスパンも長い不動産ビジネスにおけるモニタリング体制として適切な構成となっています。

こうした取締役会の多様性を重視する姿勢を明らかにすることを目的に、今般当社の取締役会が経営監督機能、モニタリング機能を適切に発揮するために取締役が備えるべきスキルを特定したスキル・マトリックスを策定し発表しました。もっとも、当社は以前から取締役会の多様性確保を強く意識していましたので、今回の発表は実態を改めて形にしたという性格が強いと感じています。形を作ることは意味があると思いますが、それ以上に大事なことは、女性比率の向上を含め実態としてのダイバーシティを更に高め、皆が自由闊達に議論できる組織文化や雰囲気を醸成することであり、私も取締役会の一員として貢献していきたいと思っています。

持続可能な利益追求を目指した報酬制度の構築

2022年4月に役員の報酬制度を改定しました。私も報酬委員としてこの改定に関わりましたが、これは報酬制度と「長期経営計画 2030」の連動性を強めることによって長期経営計画の達成へのコミットメントをより高めること、また、株式や株価に連動した報酬割合を引き上げることを通じて株主との価値共有を一層進めることが狙いです。

リーマン・ブラザーズの破綻に象徴される2007年から2009年にかけてのグローバル金融危機は企業経営を考える上で貴重な教訓を提供しています。金融危機の原因の一つは金融市場の有する短期的なバイアスであったと思います。つまり中長期的に持続可能な利益ではなく、短期的な利益を追求してしまったということです。私は日本銀行で金融政策の仕事に長く関わり、金融市場の持つ強みと弱みの両方を感じてきました。そうした経験を踏まえて言うと、インセンティブ性を高めることは正しい方向ですが、その場合に忘れてならないのは、インセンティブは持続可能な利益との連動性を強めるものでなければならないということです。「本質は細部に宿る」という言葉がありますが、今般の報酬制度の改定の議論にあたっても、どうすれば中長期的に持続可能な利益や株価向上に取り組む思考や行動様式が根付くかという問題意識に立って議論に参加しました。

実質的な価値を追求する組織としての、適正な経営判断を後押しする

私が当社の取締役を引き受けたのにはいくつかの理由がありますが、不動産というビジネスそのものに関心があったことも大きく影響しています。これは長年にわたり中央銀行で仕事をしてきた私の職業経験と関係するのですが、内外の経済の大きな変動の多くは不動産市場の変動と関係しており、そうしたことから不動産というビジネスに昔から関心を持っていました。

もう一つは、一国の経済的競争力というものの実態が都市の競争力に大きく左右されると考えていたからです。私は「人を、想う力。街を、想う力。」という当社のブランドスローガンが大好きです。「街」というのは人が集まって仕事や生活をする場であり、それ故、アイデアが集まり色々なイノベーションが生まれる場でもありますが、それが都市の機能だと思います。都市の魅力を高めていくことは当社の大きなミッションですが、これは日本経済の競争力向上には欠かせないものです。そうした不動産ビジネスに取締役会の一員として関与できるというのはやりがいのある仕事だと思いました。

現在当社は、「長期経営計画 2030」に取り組んでいますが、最終的に当社の企業価値を決めるのは当社が社会の真のニーズにどれだけ応えているかという実体的なものです。財務戦略、資本政策は不可避的に起こるショックに対する耐性を高めるという意味で勿論重要ですが、それ自体で企業価値を高めるものではありません。

企業の業績はROAやROE、あるいはEPSといった財務指標に反映されるので、「長期経営計画 2030」の中でも強調されているように、一定の目標値を定めることは重要です。しかし、それは瞬間的な数値ではなく、持続可能なものでなければ意味がありません。また数値化が難しいものについても難しいから考慮しないというのではなく、定性的な判断として織り込んでいき、数値、非数値両方の情報を意識的に組み込んだ経営を実践することが、企業価値向上につながると考えています。

「信頼」を積み上げる企業として、ふさわしいガバナンス体制の構築に貢献する

企業の成長を担うのは「人」であり、三菱地所という会社の理念に共感する人たちが、やる気を持って仕事に従事できることが重要です。また、グローバル化やテクノロジーの変化に対応できる「人財」を惹きつける組織であることが必要不可欠です。当社はそうした専門的な知見やスキルを有する「人財」から選ばれる、質の高い意思決定を積み上げていける組織であることが求められます。そのためにも、変化に対応できる組織としてのガバナンス体制を構築することが重要であり、我々社外取締役には、そこに対応する知見が期待されているのだと感じています。当社に対して人々が持つイメージは、「信頼できる会社」ということだと思います。不動産ビジネスは長期的な視野に立った仕事なので、この「信頼」というのは非常に重要です。今後も当社が社会の信頼に応え続けられるよう、「人を想う力。街を想う力。」というブランドスローガンを共有し、事業を通じて社会に貢献していけるよう、社外取締役として役割を果たしていきたいと思っています。

2022年8月