2018/04/02 田川 欣哉 氏デザインの視点からイノベーティブな環境を考える 第3回 ロイヤル・カレッジ・オブ・アートにおけるイノベーション人材の育て方

デザインエンジニア Takramパートナー/ディレクター

田川 欣哉 氏

ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に精通するデザインエンジニア。グッドデザイン金賞など受賞多数。内閣府クールジャパン戦略アドバイザリーボードメンバー。2015年より英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授。

「まだ存在しない仕事をする人」を育てる

僕はTakramを運営する傍ら、世界最古のアートスクールであるイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で客員教授を務めています。担当しているのは「イノベーション・デザイン・エンジニアリング(IDE)」というインペリアル・カレッジ(工科大学)とのジョイントコースで、工学系とアート系の両方の修士号を取ることができます。このコースでは、イノベーションを起こせるような越境人材を育てることにフォーカスしています。

IDEには、次のようなスローガンがあります。

"Since we live in an age of innovation, a practical education must prepare a person for work that does not yet exist and cannot yet be clearly defined."(我々はイノベーションの時代に生きている。このような時代における実際的な教育とは、まだ存在しておらず、はっきりと定義されていない仕事をする人を育てることでなければならない)

これはピーター・ドラッガーの言葉です。簡単に言えば、今、職種として名前が存在しているような人は育てるな、ということです。目の前にいるのは、我々が全く知らない仕事をする人であり、職業名を自ら考えていく人たちです。したがって、我々が知っている職業のフレームワークに当てはめた人を育てるのではなく、いわゆる"万能細胞"のような形で、時代の要請に応えながら、自分自身を前の時代の人たちとは違うやり方で開拓していくような人を育てることが、教育思想の根幹にあります。

この言葉は、イノベーションを起こしたり、イノベーティブな場所をつくったりする上でのガイドラインにもなります。自分たちがよくわからないようなものを、どういう尺度で抽出して、どういうバランスで混ぜるかが重要になります。

BTC型人材を育成するための仕掛け

IDEでは、学生のダイバーシティを確保するため、あらかじめ3×3のマトリクスで9マスの枠を設けて入学生を選考しています。縦軸は出身地別で、イギリス、イギリス以外のヨーロッパ、ヨーロッパ以外の地域(アジア、アメリカ等)が1/3ずつ。横軸は専門別で、エンジニア、デザイナー、それ以外が1/3ずつです。それ以外の専門分野は、コンサルタントや弁護士、物理学者など多彩です。これはBTCを3等分していることと同じです。学生の数は、枠ごとに10人ずつくらいで総勢100人程度になります。このように強制的にダイバーシティを確保しないと、学年によって偏りができてしまいます。こうしてさまざまな人を混ぜ合わせながら育てることによって、ここからたくさんのベンチャーが生まれていて、RCAはアートだけでなく、イノベーションを教える学校としても知られるようになってきています。

なぜ、このような異種交配がいいのでしょうか。BTCを配合してチームを組むと、自分にないスキルを、他の人たちから猛烈に学びます。例えば、デザイナーとエンジニア以外の、いわゆるビジネスパーソンに当たる学生たちは、同じチームのデザイナーやエンジニアから、スライドの作り方や観察の仕方、アプリの作り方などを学びます。そうした学び合いを頻繁にできるように、IDEでは2週間に一度くらいのタイミングでプロジェクトチームを変え、その都度アウトプットを出すような仕組みになっています。

また、ひたすら学ぶだけよりも、自分の頭の中にある知識を人に教えることが学びになると言われています。ただ、教えるばかりでは新しい知識が入ってきません。そこで、学生たちの時間の半分は学ぶモード、もう半分は教えるモードとなるように設定しています。このようにすると、学びの質が異なるため、成長が加速します。

このやり方はTakramにも取り入れています。会社のポリシーとして、一人のメンバーが1つのプロジェクトに専任することはありません。必ず2つのプロジェクトを受け持ち、1つは自分が先生役になれるプロジェクト、もう1つは自分が生徒役にならざるを得ないプロジェクトになっています。この2つを50:50でできると、ラーニングカーブが通常よりも20〜30%上向きます。それが複利で効いてきますから、年を追うごとに大きな差になっていきます。1人の人間がBTCを身につけるのは、普通のやり方では困難ですが、このようにラーニングカーブの角度を高めることができれば、BTC型に近づけるのではないかと考えています。

IDEには、3人の教授とフルタイムの「シニア・チューター」の他に、IDE修了者による「ビジティング・チューター」が100人くらいいます。IDE修了者の3分の1が自分で会社を立ち上げます。そういう人たちの中で、優秀だった人に教授が声をかけて依頼をします。卒業したての人から50代のベテランまでさまざまです。ビジティング・チューターはそれぞれのプロフィールとスケジュールが公開されており、学生は時間を予約してチュートリアルを受けることができます。実際にビジネスをしている人たちの指導を受けられるので、学生にとっては非常に有意義な機会となっています。ビジティング・チューターにとっては、選ばれることは名誉なことであり、フレッシュな若者と触れ合えることがプラスになっています。

「学び」の付加価値を高めるべき

イノベーティブな都市をつくるには、イノベーションの担い手となる人たちに集まってもらい、その人たちをエンパワーすることが重要です。そのためには、"異種交配"を起こせるような環境を用意する必要があります。大型のオーセンティックな組織から小型のアジャイルな組織までがそろい、BTCが有機的につながるような環境も求められます。渋谷などの"西海岸"と丸の内などの"東海岸"の2つのカルチャーを融合させることも大切でしょう。

まっさらな状態からイノベーションが生まれる場所をつくる場合、カギを握るのはコミュニティづくりだと思います。コミュニティを形成するには、核になる組織やキャラクターが必要です。例えば、今勢いのあるメガベンチャーや、自らスタートアップを何回かイグジットした経験のあるエンジェルで、後進のメンターもやっているような人を何人か集められるといいと思います。

優秀な人には2つのインセンティブがあります。金銭的なインセンティブと成長のインセンティブです。優秀な人が会社を辞めたいと思うのは、転職すればもっといい給与がもらえる時。そしてもう一つは、自分が成長できていないのではないかと感じる時です。したがって、企業が優秀な人材をつなぎ留めるには、金銭面だけでなく、成長の機会を与えることも重要になります。コワーキングスペースを提供するWeWorkが受けているのは、おそらく、あの場所にいると多様な人が集まるので、自分たちが成長モードに入っている気分になれるからだと思います。オフィスビルにおいても、入居した企業の従業員の成長につながるようなサービスを提供することがポイントと言えるでしょう。

これからのデジタルネイチャーの時代は、個人の競争力が資本の力を凌駕していくと思います。イノベーションに取り組んでいくようなタイプの人たちは、自分の成長が加速状態にあることを好むはずです。そういう意味では、個人の成長につながる「学び」の付加価値をさらに高めていくことが、その場所の大きな魅力になるのではないかと思います。

Editors’ INSIGHT

ビジネス、テクノロジー、デザイン、この3つの要素を兼ね備えたチーム・組織がイノベーションを牽引している。
そこには様々な専門性をもった人材が集う多様性があり、領域を越えたコラボレーションがあり、お互いに教え学びあう環境がある。
ビジネス上の成功はもとより、自身の成長がその場に集まる強い原動力となることは、常盤橋のあるべき姿を考えるうえで重要な視点だと感じました。常盤橋が「学び」を得る場として世の中から認識されるために必要なこととは何か、今後のインタビューを通じて考察していきたいと思います。

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