2018/03/26 田川 欣哉 氏デザインの視点からイノベーティブな環境を考える 第2回 なぜ「デザイン」がイノベーションに必要なのか

デザインエンジニア Takramパートナー/ディレクター

田川 欣哉 氏

ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に精通するデザインエンジニア。グッドデザイン金賞など受賞多数。内閣府クールジャパン戦略アドバイザリーボードメンバー。2015年より英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授。

世界で活躍する企業はBT型からBTC型へ

前回、イノベーションを起こすには、BTC(ビジネス/テクノロジー/クリエイティブ)を全て備えることが重要だと述べました。実際に今、世界で活躍している企業は、ほとんどがビジネス+テクノロジーにクリエイティブを加えたBTC型企業です。
グーグルもアップルもサムスンも、皆BTC型です。
一方、日本に多いのはビジネス+テクノロジーのBT型企業です。キヤノン、ソニー、トヨタ、パナソニックなど、ビジネスとテクノロジーの使い手たちが世界で活躍してきました。
日本のGDPの約80%はBT型が生み出しているのではないかと思います。しかし、これからの時代は、クリエイティブ、つまりデザインがだめな企業は競争に勝てなくなるでしょう。したがって、日本企業もBT型からBTC型に強化する必要があります。
BT型からBTC型に移行するプロセスには、「デザインシンキング」を活用してBからCに手を伸ばすパターンと、「デザインエンジニアリング」を活用してTからCに手を伸ばすパターンの2種類があります。

なぜ、デザインが重視されるようになったのでしょうか。産業の歴史を振り返ると、明らかにフェーズが変わった瞬間があります。それは、2000年代に入ってからのインターネットの普及です。インターネット普及以前の購買決定要因は、「機能」と「性能」と「価格」でした。その3つに優れた企業が競争力を誇っていたのです。しかし、インターネットが普及すると、グーグルのサービスに代表されるフリーエコノミーが登場し、価格の競争力が低下します。その代わりに浮上したのが「体験」です。インターネットが普及するまでは、お金を払うタイミングは、主に体験をする前の1回だけでした。現在は、サブスクリプション方式が普及し、体験が良くないと途中で離脱されてしまうため、売上が低下することになります。体験の良さがビジネスの成功に直結するようになったのです。

デジタルプレイヤーたちは、体験の価値をよく理解しています。その体験をつくるのが、デザイナー(C)です。デザインには、見た目だけでなく使い勝手も含まれます。一方、ビジネスパーソン(B)とテクノロジスト(T)は、体験をつくるトレーニングを受けていません。インターネットの普及により、従来の「機能・性能・価格」に「体験」が新たに加わったために、BT型からBTC型へのシフトが重要になったのです。

デザイン価値の向上は時代の要請

「デザインの価値を、上司などエグゼクティブに説明するのが難しい」という話をよく聞きます。それは当然のことで、彼らは"20世紀人"だからです。"20世紀人"は、インターネット普及以前のビジネスモデルでやってきた人たちなので、デザインがなくてもビジネスができました。しかし、賢いエグゼクティブは、「デザインがなければビジネスができない」とわかれば、取り入れようとするはずです。それがわからないエグゼクティブには、辞めていただいた方がよいでしょう。特に新規事業は、デザインの重要性が肌感覚でわかる人たちに権限を委譲しないと、競争から遅れてしまいます。

デザイン価値の向上は一過性のブームではなく、時代の要請です。今や、デザインによってもたらされる体験やブランドは、ビジネスモデルと同じくらいのインパクトを持ちうる状況になっています。例えば、メルカリのUX(ユーザー・エクスペリエンス)が良くなければ、ここまで流行ることはなかったでしょう。LINEを立ち上げた森川亮さんは、B=3:T=3:C=4の配分でLINEをつくったと言います。森川さんと話していると、デザインの価値は話題にも上りません。それこそが儲けの源泉であり、もはや当たり前の話からです。デザインの素養は、MBAと同じくらい多くのビジネスパーソンが身につけておくべきものになっていると思います。

課題設定におけるプロトタイピングの重要性

どのようなビジネスでも、まず課題を設定し、次にその課題を解決するという2つのフェーズがあります。クライアント企業と一緒に仕事をすると、経営企画部で課題を設定し、事業部で課題を解決するといったように、2つのフェーズを分業しているケースが多く見られます。しかし、この2つを分業で行うのは、かなり難易度が高いと思います。なぜなら、課題設定のフェーズでは、解けない課題を設定している場合が多いから。よく見られるのが、その企業が解く課題ではないような課題を設定しているパターンです。その企業が取り組むよりも、グーグルが取り組んだ方がいいような課題を設定しているケースはとても多い。しかし、それが最適な課題かどうかを設定の段階で見抜くことは難しいもので、実際に取り組んでみないとわからないことが多々あります。ベンチャーでも、最初に目論見書を書いてスタートしますがそのまま進むことはほとんどなく、だいたい途中で2、3回方向転換をします。大事なことは、課題設定と課題解決のサイクルをスピーディーに回すプロセスを設計することです。

Takramでは、課題設定にも課題解決にも時間をかけすぎないように、2つのフェーズをできるだけ早いサイクルで回すやり方を最初に考えます。そして、そのサイクルを回す中で、正しい課題を速やかに発見するのです。そのために必要なのがプロトタイピングです。プロトタイピングは、課題解決をバーチャルで、低コストかつスピーディーに行う方法です。プロトタイプをつくることに意味があるのではなく、つくったプロトタイプを検証することで、解決手段が間違っているのか、あるいは課題設定自体が間違っているのかを明快に理解することができるのです。

プロトタイピングを行うと、課題設定と課題解決をほぼ同時に行うような形になります。大きな課題設定をすると、得てして解けない課題になりやすく、逆に解きやすくするために小さな課題設定をすると、重要度の低い課題解決に終わってしまいます。そのようになることを避け、解ける大きな問題を早く発見するために、プロトタイピングが必要なのです。プロトタイピングを行う上でも、BTCは有効です。プロトタイプ作りにはデザインが必要ですし、検証する際にはビジネス視点やテクノロジー視点が役立ちます。

しかし、プロトタイプは、実物と同じようにつくると実物と同じコストがかかってしまいます。それを避けるためには、検証したい部分だけをつくることがポイントです。実現したい最終形を因数分解して、過去の経験知からわかるところは置いておき、議論が紛糾するような部分でプロトタイプをつくります。例えば、「イノベーティブなコミュニティをどうすればつくれるか」は、どれだけ議論しても答えは出てきません。そこで、イノベーティブなコミュニティのプロトタイプを実際につくってみるのです。その際に注意したいのは、そのプロトタイプがスケーラビリティを備えていることです。どの程度のスケールで、どの程度の期間、何をやれば検証できるのかを最初に決めておくことが必要です。都市開発ともなれば、そうやって検証すべきことが恐らく何十とあると思います。何をどう検証すれば議論が短縮できるのか、という観点からプロトタイピングを行うべきでしょう。

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