2018/03/19 田川 欣哉 氏デザインの視点からイノベーティブな環境を考える 第1回 0から1を生み出すデザインファームが重視していること

デザインエンジニア Takramパートナー/ディレクター

田川 欣哉 氏

ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に精通するデザインエンジニア。グッドデザイン金賞など受賞多数。内閣府クールジャパン戦略アドバイザリーボードメンバー。2015年より英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授。

イノベーションに特化したデザインファームTakramの代表であり、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)の客員教授も務める田川欣哉氏。TakramやRCAでの活動を踏まえ、イノベーションにおけるデザインの重要性や、イノベーティブな人材が育つ環境などについて伺いました。

僕が代表を務めるTakramは、2006年に共同設立したデザインファームです。東京とロンドンに拠点があり、約40名のスタッフが仕事をしています。一般的なデザイン会社は、パンフレットやウェブサイトなどのグラフィックを手がけるところが多いですが、僕らがやっている仕事の大半は、企業における「0から1」を生み出す部分に当たります。

僕らは、イノベーションの担い手を「BTCトライアングル」と呼んでいます。Bはビジネス、Tはテクノロジー、Cはクリエイティブです。この3つの職種の人たちが、コンパクトなチームとして有機的につながった状態がBTCトライアングルです。BTCがそろっていれば必ずイノベーションが起こる、とは言えませんが、イノベーションの確率を高めるには、BTCをそろえることが基本だと考えています。逆にBTCが担保されていないところでイノベーションを生むのは難しいでしょう。BTCは、チームとして補い合う方法もありますが、僕らがもう一歩踏み込んでやろうとしているのは、個人の中にBTCをいかにつくり込んでいけるか、ということです。それは、組織から見ればスーパーマンのような人ですが、そのスーパーマンがイノベーションを起こしていくことを、基本的な行動規範としています。ですから、僕らはどうすればBTC型の人材になれるかということを常に考えています。

今、メガベンチャーを経営している人々は、ほとんどがBTC型です。日本でも、メルカリの山田進太郞さんやスマートニュースの鈴木健さんなど、表向きはBとTのプロフェッショナルに見えますが、Cについてもよく理解しています。イノベーションに関して人材面から言えば、現場もエグゼクティブも、BTC型の人材を増やすことがカギだと思います。イノベーティブな都市づくりも、人材論や組織論で言えば、このBTCがそろったシーンをいかにつくっていくかが非常に重要です。

イノベーションを起こす方法を日々考える

Takramのビジョンはすごくシンプル。1つは「design innovation firm(デザイン・イノベーション・ファーム)」です。日本では20年くらい前まで、イノベーションは「技術革新」と訳され、革新とは技術によって起こるものだと考えられてきましたが、最近は皆カタカナで「イノベーション」と言うようになりました。

学術的には「技術駆動型イノベーション」「プロダクトイノベーション」「プロセスイノベーション」「組織イノベーション」などいろいろありますが、最近は「デザイン駆動型イノベーション(デザイン・ドリブン・イノベーション)」が欧米を中心に盛り上がりを見せています。Takramでは、そのデザインを使ってイノベーションを起こすことに取り組んでいます。ファームには、会計事務所や弁護士事務所と同じで、事業主としてではなく、事業主の方々が起こそうとしているイノベーションをサポートするプロフェッショナルという意味を込めています。

もう1つのビジョンが「transcending the boundaries(トランセンディング・ザ・バウンダリーズ)」です。「バウンダリー」は「境界」、「トランセンド」は「飛び越えていく」という意味です。よく「越境」という言葉が使われますが、境界線を飛び越えていく行為からイノベーションが生まれやすいと言われています。イノベーションが起こるきっかけとして、次の2つがよく挙げられます。1つは異種交配(クロスポリネーション)。普段出会わないような人たちが何かのきっかけで出会うことによって、新しい会話が生まれたり、新たな可能性が発見されたりします。カンファレンスなどが重宝されるのはそのためです。もう1つは辺境です。自分たちのいる領域の中では、可能性の探索はほとんど終わっています。そこから出て、異世界に入ると、全てが新鮮に見えるので、その領域にいつもいる人は考えもしなかったようなことを思いついたりします。そういうホワイトスペースは、今やほとんどありませんが、AIやフィンテックやブロックチェーンなどのような新しい技術が登場すると、そのエッジのところでイノベーションが起こることがあります。このようにして、イノベーションはどうすれば起こせるかということを日々考えています。

「学習し続ける組織」と「ソート・リーダーシップ」を重視

Takramが大事にしている価値観が2つあります。1つは「learning organization(ラーニング・オーガニゼーション)」です。世の中の動きが加速する中では、学び続けることが日々の仕事の節々に織り込まれているような組織が、イノベーション体質が高いと考えられます。そのような組織を実現していこうと考えています。

もう一つが「design thought leadership(デザイン・ソート・リーダーシップ)」です。ソートリーダーシップとは、自らの思いや考え(=thought)を表明してリーダーシップを発揮することです。こういうタイプの人たちがどれだけいるかが、組織や社会の強度につながっていくと言われています。ビジネスパーソンは、とかく"ing"の世界でPDCAを回すことに埋没しがちです。デザイン業界でも、UIやUXなど体験型にシフトしていく中で、いわゆるプロトタイピングやデザインシンキングなど、"ing"の世界が増えています。しかし、"ing"はKPIを高めるためには有効ですが、長期にわたって人を下支えする土台にはならないことも事実です。僕らは、デザインという文脈におけるソートリーダーとしての矜持を持って仕事をしていこうと考えています。

僕らの仕事は、プロダクト、ブランディング、ビジネスデザイン、R&Dの4つの領域に集約できます。R&D系プロジェクトの例としては、世界初のロボット月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に挑戦する日本唯一のチーム「HAKUTO」で、月面を走行するローバーの意匠コンセプト立案とスタイリングを担当しました。残念ながらロケット自体が打ち上げ期限に間に合わず、レースは終了してしまいましたが、今後も月面探査の実現を目指しています。このプロジェクトでは、ミッション達成のための機能的なデザインに、宇宙系のエンジニアたちと侃々諤々議論しながら取り組んできました。また、「Eight(エイト)」という名刺管理プラットフォームは、Sansan(サンサン)と僕らとで一緒につくったサービスです。その他、イッセイミヤケなど、純粋なデザインも行っています。

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