2018/07/09 龍崎 翔子 氏これからのホテルに求められる価値とは 第3回 ホテルの方向性はディスカッションから生まれる

L&G GLOBAL BUSINESS, Inc. 取締役・ホテルプロデューサー

龍崎 翔子 氏

2015年にホテル事業を行うL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立。「petit-hotel #MELON 富良野」(北海道・富良野)を皮切りに、「ソーシャルホテル」をコンセプトにした「HOTEL SHE, KYOTO」(京都・東九条)、「HOTEL SHE, OSAKA」(大阪・弁天町)、「CHILLな温泉旅館」がキーワードの「THE RYOKAN HOTEL TOKYO」(神奈川・湯河原)、「ホテルクモイ」(北海道・層雲峡)をプロデュース。

ホテルづくりはどのように行われているか

個人的な感覚では、ホテルの良し悪しは、7割がハードで決まると思います。なぜなら、ソフト(運用面)も基本的にハードによって設計されるからです。私たちがお願いしている内装デザイナーの方が、「空間の良し悪しは8割方図面で決まる」とよく言われます。人がどう動くか、どういう動線で体験を演出できるかというのは、全て最初のレイアウトで決まる。あとの飾りは、あくまでも化粧であって、大事なのは骨格づくりだということです。ホテルづくりもその考え方と似ていて、「どういうホテルなのか」というコアの部分を、オープン前の空間に落とし込むことが非常に大事だと思っています。残りの3割は不確定要素であり、ハードを引き立てるようなソフトをどうも盛りこんでいくかにかかってきます。

ホテルをつくるときは、いつも非常に混迷します。「どうしよう!」みたいな感じで始まります。ただ、最近はそれでいいのかなと思っているんです。「これはこうだから、こうで、こうで、こう」みたいに演繹的につくると、余白がなくなってしまうからです。私の場合は、いろいろなレイヤーから考えます。その街を引き立てるにはどういうホテルがいいのか。一消費者としてどんなホテルがほしいか。この世代の消費トレンドからすると、どんなホテルがいいのか。そうやって考えたことを、プロジェクトのメンバーや地元の皆さん、あるいはその地域に行ったことのない潜在的な消費者の方々とディスカッションして、自分の中の引き出しを増やしていくんです。それをやっていると、ある時、ハッと気づくことがあって、それがどのレイヤーにおいても成立する、どういう文脈でもバシッとはまることが多いんです。それをキラーコンテンツにしてホテルをつくっていきます。

例えば「HOTEL SHE, OSAKA」の場合は、それがレコードでした。ホテルのコンセプトは「旅先で+αの出会いと、情報と、価値観を得られるホテル」というものですが、そのコンセプトを体現する、目に見えるアイコンとしてレコードを使っています。レコードを使うことが、割とどのレイヤーにおいても文脈に合ったんです。街の空気感にマッチしていただけでなく、音楽にスピンオフしやすかったり、SNSで発信しやすかったり、メディアの方にも説明しやすかったり。あらゆる面において都合がよかった。それは、私だけでなく、みんなにとって「これしかないわ」という納得感がありました。

だから、最初からレコードありきではないんです。当初は、クラフト感とラグジュアリー感とストリート感をいかに融合するか、みたいなことをすごく考えていました。そんな時、たまたま友達からレコードリースの事業を始めたいと相談されて、「あれ、レコードってよくない?」と。私もレコードをプレゼントされたことがありますが、レコードっていいなと思っても、わざわざ自分でお金を出して買おうとまでは思わないんですよね。ただ、それが自分の専有空間の中にあって、針を落とした瞬間に自分の世界が広がっていく体験がすごく良かった。それで、そういう体験をホテルの中でできたらいいなと思ったんです。

このアイデアでいけるかどうかの判断は、感覚的なところもありますが、「これをやらないのは嫌だ」みたいな気持ちになったら、多分もうはまっているんじゃないかと思います。あとは、いろいろな人たちとディスカッションする中で、いつの間にかそのアイデアが前提になって、次のことを考えている。はまるアイデアは、議論がそれありきで進んでいくんです。逆にダメなアイデアは、みんな勝手に受け流してくれるので、ディスカッションは自浄作用の効果もあります。

街のストーリーを活かしたホテルづくりを

どんな街でも、採算さえ合えばホテルはつくれると思っています。なぜなら、その街は世界に一つしかなく、その街にしかないストーリーがあるからです。必ずその街固有のカラーがありますし、もしなければ、自分がそれをつくってしまえばいいと思っています。

京都や大阪のように商圏が大きなところでは、東九条(京都)や弁天町(大阪)などのように、よりエリアを狭めてイメージを膨らませます。一見ブランドバリューの低いところでも、見せられる価値がまだあると思っているので、大都市では、そういう場所をあえて選んでいるところはあります。

特にイメージをつくりやすいのは、地名が美しい場所です。例えば、「ホテルクモイ」は北海道で一番高い大雪山の麓にある「層雲峡」というところにあるんですが、霧や雲がかかる、水墨画の世界みたいなところで、場所の雰囲気を地名が体現しているんですね。地名を聞いただけでイメージがわくところが気に入っています。私が初めて手がけたホテルがある「富良野」も、すごくきれいな名前ですよね。

「常盤橋」という名前は、同名の駅がないのは知名度的にはマイナスですが、「常盤」には永久に変わらないという意味がありますから、未来への架け橋になるような名前で、とても美しいと思います。地名は、その土地の歴史を表すことが多いですし、その地域のアイデンティティだと思います。ぜひ、常盤橋という名前を世界に発信してほしいと思います。

常盤橋プロジェクトでもホテルを検討されているそうですが、もし、私が常盤橋にホテルをつくるとしたら、きっと常盤橋のルーツに戻ります。参勤交代の通り道だったことなど、この場所の歴史を踏まえながら、自分たちのつくりたい理想の常盤橋像にうまく橋渡しできるようなコンセプトを考えると思います。

東京駅前にできる常盤橋プロジェクトは、東京の顔になる街になると思います。B棟ができる10年後が楽しみです。私も、「HOTEL SHE, TOKYO」をオープンさせる夢を、いつか実現したいと思います。

Editors’ INSIGHT

龍崎さんのお話を伺って印象に残ったのは、「非日常感」のトレンドが「単純なラグジュアリー」から「他人の日常」にシフトしていることを踏まえ、「他人の日常」を気軽に体験できる空間としてホテルを結びつけた点でした。
「他人の日常」をより強く実感してもらうために、その街の個性・ストーリーを活かしながら、ハード・ソフトのみならずレコードなどの演出装置を意識的に組み込むことで、ホテルの世界観を徹底的に作りこむ。さらに、ホテルの世界観を伝えるだけでなく、インスパイアされた宿泊者がその体験を伝えやすくする工夫を凝らす。自発的な情報発信を促す体験設計は、ホテルのみならず常盤橋再開発に広く関わる重要な視点だと感じました。
龍崎さんのホテルのようにさまざまなインスピレーションを与えてくれる街づくりのために、リサーチを続けていきたいと思います。

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