2018/07/02 龍崎 翔子 氏これからのホテルに求められる価値とは 第2回 ホテルは「ライフスタイルを試着する」空間

L&G GLOBAL BUSINESS, Inc. 取締役・ホテルプロデューサー

龍崎 翔子 氏

2015年にホテル事業を行うL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立。「petit-hotel #MELON 富良野」(北海道・富良野)を皮切りに、「ソーシャルホテル」をコンセプトにした「HOTEL SHE, KYOTO」(京都・東九条)、「HOTEL SHE, OSAKA」(大阪・弁天町)、「CHILLな温泉旅館」がキーワードの「THE RYOKAN HOTEL TOKYO」(神奈川・湯河原)、「ホテルクモイ」(北海道・層雲峡)をプロデュース。

人々の求める「非日常感」は、ラグジュアリーから「他人の日常」へ

ホテルは、文化を発信する場だと思っています。お客様が発見や気づきを得られる、雑誌のような存在です。そんな新しい世界への入口を、ホテルの中にたくさん用意してあげること。それが、私が最も大事にしている考えです。ホテルは衣食住の一角を占めているので、ライフスタイル空間づくりをしていると思っています。アパレルのように、お客様が服を試着するような感覚で、ライフスタイルを“試着”できる。それによって、新しい生活が生まれたり、新しい世界が開けたりするんです。例えば、「HOTEL SHE, OSAKA」の場合は、全客室にレコードプレーヤーを設置することで、「アナログな音楽体験のあるライフスタイル」を提案しています。

これが戸建てやマンションのような本当の住空間だと、完全にお客様ファーストになります。お客様が住みたい家に住まわれるので、知らない世界を体験することはなかなかできません。また、ユーザビリティやコストの問題などで、実現したくてもできないことの方が多いと思います。それに対してホテルは、お客様にライフスタイルを試着するような空間を提供できる、唯一の場だと思います。理想の部屋、理想の生活空間をつくって、お客様に泊まっていただくこと。それが私たちのホテルに対する考え方です。

私たちが提供しているようなライフスタイル系ホテルのトレンドができたのは10〜20年前のことです。インターネットが発達して個人が発信できるようになったから、インディペンデント系のホテルが日の目を見るようになったんだと思います。それ以前は情報発信の方法が広告しかなかったので、規模の大きなチェーンホテルが中心でした。

最近、「非日常感」のトレンドが変わってきています。少し前の非日常感はラグジュアリーでした。今の非日常感は、「他人の日常」なんです。Airbnb(エアビーアンドビー)は、まさに他人の日常を体験することですよね。私はホテルの中に、「ゲストの思い描く最高の日常」という非日常をつくりたいと思っています。

ホテルをプロデュースするうえで参考にしているのは、他のホテルよりもピンタレスト(Pinterest:自分の好きな写真や画像を集めてシェアできるWebサービス)です。ピンタレストを見ると、個人の趣味として、とても理想的な世界がつくられていて、ビジネスでは到達できないものが多い。一部のとても“実装力”の高い方たちによる、最高に理想的な空間やレイアウトがあるので、それをビジネスとしてどう落とし込むか、という感じで見ていることが多いです。

ホテルのスタイルは、街に合わせて変化させる

私たちのホテルは、ターゲットを特に設けていませんし、定量的な分類もしません。よく、20代の女性向けとみられがちですが、全くそんなことはありません。私たちのホテルは、旅を楽しみたい方のためのものです。ターゲットを先に決めるのではなく、その街に来るお客様の層をある程度分析して、それを意識しながらホテルづくりをしています。

私は、自分のつくりたい理想のホテルをつくっているクリエイター肌の人間だと思われることもありますが、どちらかといえばビジネスドリブンです。まず採算ベースで合うかどうかを見てから、その街の文脈にフィットするホテルをいかにつくるかを考えます。結果として、クオリティや空気感は似ているかもしれませんが、ホテルの性格は街ごとにバラバラです。例えば、「HOTEL SHE,」は商圏の大きなエリアの中のマイナーな街で、駅の近くにある都市型のホテルです。その地域の文脈を踏まえながら、自分たちのイメージするありたいホテル像と融合させるようにしていますが、サービスは統一しています。なお、「SHE,」は、私たちのサービス理念を象徴していて、SはSatisfaction、HはHeartfelt、EはEmotionalを表しています。一方、今年5月にオープンしたホテルクモイ(北海道・層雲峡)は、規模感はほぼ同じですが、温泉地にあるリゾート型ホテルです。このように、スペックなどの大枠はそろえつつ、中身はホテルごとに変えていきます。そういう意味では、統一したコンセプトを掲げつつ都市ごとにスタイルを変えているWeWorkと近いといえるかもしれません。

お客様の感想を引き出すフックが必要

私たちの提供するようなホテルの存在を知ってもらうには、そのホテルの世界観を発信していくことが必要です。そのために3つのレイヤーがあります。1対nの発信、1対1の発信、1対1対nの発信です。1対nは、Webを利用した情報提供。1対1は、来ていただいたお客様に対して、ホテルの世界観を説明することを意識しながらもてなすこと。そして1対1対nは、ホテルを利用されたお客様がSNSなどを通じてクチコミを発信してくださることです。ホテルの場合、実際に利用されたお客様の感想が重視されることが多いため、お客様の発信力はとても大事に考えています。

ただ、ホテルの世界観というのは、写真に写らないし、文章にも載りにくいので、なかなか伝わりにくいものです。そこで、レコードのように、それをうまく表現できるものを意識的に入れるようにしています。HOTEL SHE, OSAKAにレコードがなかったとしても、正直、クオリティは変わらないと思います。でも、それでお客様に気に入っていただいても、お客様はなかなか発信しにくい。あのホテルに泊まったけど、おしゃれだった、いい感じだったとしか言いようがない。でも、そこにレコードが入ると、すごく説明しやすくて、お客様の感想を引き出すフックになるんですね。だから、レコードがなくてもホテルとして成立はしますが、意図的にそういうフックを入れて、言語を介さなくても伝わるものをつくりたいと思っています。

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