2017/10/30 中原 淳 氏多様性を生産性向上に結びつけるための「場」づくり 第3回 コミュニケーションを活発にするための「場」づくり

東京大学 大学総合教育研究センター 准教授

中原 淳 氏

東京大学大学院 学際情報学府。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2006年より現職。専門は人的資源開発論・経営学習論。

「ラーニングバー」の対話を生み出す仕組み

前回、多様性を推進するためには、現場のマネジャー力強化が必要だと述べました。そのベースとなるのは対話(ダイアローグ)です。最近は、対話の重要性が広く認識されるようになりました。イノベーションや創造性を生み出すためにも、対話が大事だということは広く知られています。この対話を、新たな学びに結びつけるための試みとして、今から10年ほど前に、大学で定期的に開催していたのが、「ラーニングバー(Learning bar)」という公開研究会です。

ラーニングバーは、研究者に限らずビジネスパーソンも参加でき、最先端の話題を効率よく学べて、しかも社外のいろいろな人たちとつながれる「組織を越えた学びの場」です。「バー」という名の通り、お酒や料理も提供します。最初は数人程度の規模で始まりましたが、最後には1回やるごとに800人くらいの応募が集まるほどに成長しました。このようなイベントは、今では当たり前になっていますが、当時は画期的なものでした。

ラーニングバーのヒントは、マサチューセッツ工科大学(MIT)に客員研究員として留学していた頃の体験にあります。MITや、そのすぐ近くにあるハーバード大学では、キャンパスのあちこちで、毎日のようにオープンな研究会やイベントが開かれていました。だいたい17〜19時頃から始まるのですが、教員や学生だけでなく、仕事帰りのビジネスパーソンなども立ち寄ることができます。ワインを飲んだり、ちょっとしたつまみを食べながら、リラックスした雰囲気の中で、講師から最新の話題を聞いたり、ゆるゆると議論をしたりして、とても面白い経験でした。これと同じような場を、日本の大学でもやりたいと思ったのです。

ラーニングバーでやろうとしたのは、「知がめぐり、人がつながる場のデザイン」です。単に「場所」をつくるのではなく、人の相互作用が生まれる「場」をつくり出すことが目的でした。ただ人を集めて、そこで「対話してください」と言っても、何をしゃべればいいのかわからないものです。そこで、第一にやらなければいけないことは、集まった人たちの心理的な安全を確保することです。初めて会った人たちの前で自分の素をさらすのは、難しいものです。ですから、「ここは安全な場だから、鎧を脱いでもいいよ」と、心理的なハードルを下げていくのです。そのために、その日のコンセプトに合わせて会場を装飾したり、料理を用意したりして、日常から遮断された場所をつくりました。

次に大事なことは、話題づくりです。対話をするには、世の中の最先端の話題が必要です。ただし、講師がその話題について一方的に60分間しゃべり続けてはだめで、いかにコンパクトにまとめるかが大事です。ラーニングバーでは、60分の内容を30分で話せるように、講師と一緒に内容を組み立てていきました。講演の後には、参加した皆さんに「皆さんはどう思いますか」と問いかけをします。そうすることで、参加者は、自分の頭で考え、対話して、気づきを得ます。問いがなければ、対話は難しい。そのため、この問いをつくるのに、かなりの時間をかけました。

ラーニングバーは、何らかのアウトプットを生み出すことを目的としたものではありませんが、それでも、この活動の中から2〜3の新しいサービスが生まれています。それから、結婚なさったカップルもいくつかあるようです(笑)。良い学びの場は、葛藤があり、変化があり、互いの助け合いがあるので、結果として「婚活」にもなってしまうのかもしれませんね。

1000人規模のイベントでも対話を生み出すことはできる

かつて、東大の安田講堂で、約1000名の参加者を集めて「ワークプレイスラーニング」というイベントも行いました。ここでも、やはり参加者全員で対話する時間を取りました。これだけの規模になると、登壇者の講演を聞いただけで、いきなり対話をするのは難しいものです。そこで、1つの講演に対して、経営学、心理学、教育学など、それぞれの専門家が4つの観点からコメントをして、各コメントの後に、20分ずつ対話する時間を設けることで、1000名による対話が実現できました。僕が行ったイベントでは、最大2000人が参加したものもありますが、問いの作り方と乗せ方次第で、対話の「場」をつくり出すことができます。

特にユニークなイベントとして、ラーニングバーを手伝ってくれた大学院生が、東京・六本木のクラブを借り切って開催した「サードプレイスコネクション」が挙げられます。一般的なワークショップのように、講師が演壇で講演し、その後で参加者同士が対話するといったスタイルではなく、主催者側の仕掛を極力減らし、参加者がより主体的に学べるような場をつくろうという狙いで企画されたものです。このイベントでは、演壇を設けず、十数人の実践家が、自分の番になると1人ずつ前に出て、スポットライトの下で3分間のショートプレゼンをします。参加者はそれを聞き、自由に交流するというものでした。

現在は、さまざまなイベントが行われていると思いますが、参加者にとって学びのある場にするためには、「人が学ぶとはどういうことか」「コミュニケーションはどうすれば促進できるか」といったことに対する基礎的な知識やスキルの理解が必要だと思います。そうでないと、単なるイベントで終わってしまうでしょう。

キャンプや料理ができる研修設備が都心に欲しい

対話を生むためのツールは、他にもいろいろなものが考えられます。例えば、キャンプ。共同作業があるので、チームビルディングにも使えます。僕の研修では、「たき火」をやることがたまにあります。問題は、都内の場合、できる場所が限られること。また、雨天だとできません。以前、雨天だった時にたき火のような照明を置いてやったことがありますが、とても大変でした(笑)。

料理も、組織開発やチームビルディングによく用いられます。例えば、複数の企業から次世代リーダーを集めて、北海道の美瑛町に行き、地域の解題解決をさせるプロジェクトを何度か行ったことがあります。異業種のメンバーでチームをつくって、最初に取り組むのが昼食作りです。何もない状況から、カレーを作るのですが、その過程で何が起こったか、どんな影響力を行使したかなどを振り返り、今後の課題解決に活かしていきます。

この異業種研修に参加した皆さんが思うのは、第一に、自分のスキルは大したことがないということ。参加者は次世代リーダーの人たちで、社内では高業績を出しているため、誰もフィードバックをしてくれません。しかし、研修に参加すると、「○○さんのビジョンって、いつも小粒ですよね」とか「なぜ○○さんのアイデアはいつもパッとしないんですか」みたいなことを周囲から言われるため、痛みを伴う学習が起こります。

それから、意外に思うかもしれませんが、自分の会社が好きになります。社外の人と接することによって、自分の会社が持っている良さや強みに初めて気づくからでしょう。例えば、国営企業の社員はロジック構築能力、人材派遣会社の社員はファシリテーション能力、運輸会社の社員は現場に飛び込む能力にそれぞれ気づく、といった具合です。その結果、自分は今の会社にいた方が伸びるのではないか、と思うようになります。

研修が終わった後、会社ごとに集まってミーティングをします。そうすると、「うちの会社はこのままでいいのか」「うちの会社の強み・弱みはこういうところだよね」という会話に必ずなります。ですから、社外の人と接する機会は、たくさんあった方がいいと思います。

都心でも、料理が作れたり、キャンプができたり、たき火ができるような施設ができれば、こうした研修がもっとやりやすくなりますね。

常盤橋を新たな働き方文化の発信地に ― 「裏丸」をつくろう!

多様な働き方は、今後ますます重要性を増していくと思われます。そんな中で、常盤橋地区には、社員に対して多様な働き方を認めている企業だけを誘致してはどうでしょうか。同地区は丸の内に隣接しながらも、線路をはさんだ場所にあるので、丸の内文化になるのか、非丸の内文化をつくるのか、とても興味深いところです。渋谷には「裏渋」と言われるゾーンがあるようですが、「裏渋」といわれると、急にかっこよく聞こえますね。それにならって、常盤橋も「裏丸」というネーミングで、丸の内とはちょっと違う、働き方の新しい文化をつくれたら、面白いかもしれません(笑)。

Editors’ INSIGHT

未来の「働く」を考えるとき、多様性(ダイバーシティ)の推進は、社会や企業が対応すべき大きなトピックとなっています。
多様性を受け止めることが、組織の遠心力を強めることに繋がり、組織の求心力を保っていくためには、リアルな「対話」で何を伝えていくかが重要性になるという今回のお話は、これまでTIRを通じて得てきた知見をより深めるものとなりました。
さらに、組織の求心力を高めるための組織内における「対話」のその先、組織外の多様な人と学び、つながるための組織外における「対話」に関するお話は、リアルな空間に集まる意義の1つを、仮説として示してくれているように感じました。
つまり、「自分を高められ、成長させることのできるコミュニティがあること」なのかもしれません。

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