2017/10/02 森川 博之 氏データ・テクノロジーを活用した「働き方」 第2回 今までになかったものを生み出し、普及させるには

東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 教授

森川 博之 氏

東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。「社会基盤としてのICT」「エクスペリエンスとしてのICT」の2つの視点から、ビッグデータ/M2M/モノのインターネット、センサーネットワーク、モバイル/無線通信システムなどを研究。

15年前につくった「実空間アフィリエイト」

僕らの研究室では、15年ほど前に、ITを活用したさまざまな実証実験を行ってきました。その1つが「実空間アフィリエイト」です。インターネット上で行われているアフィリエイト・プログラムを、現実の空間でやろうとしたものです。例えば、渋谷の街中を格好いい服を着て歩き、その姿を見て格好いいと思った人に携帯電話で撮影されると、本人にアフィリエイト代金が支払われる仕組みです。まさに“歩く広告塔”です。当時は対象に近づかないと認識できず、技術的にまだ難しかったのですが、そろそろ実現できるかもしれません。丸の内を実空間アフィリエイト・エリアにすると、格好いい人たちが集まってくるかもしれません。

同じ頃にやった別の研究では、広告代理店と組んで、携帯電話に加速度センサーが内蔵されると、何がわかるのかを調査しました。僕の研究室の調査では、その人が寝ているか、歩いているか、どんな乗り物に乗っているかがわかりました。広告代理店の目的は、例えば信号待ちで止まった時など、その人の動きに合わせて広告を掲示することでした。消費電力の問題で、当時は実現しませんでしたが、今の技術なら実現できる可能性があります。

オフィスにセンサーを取り付けたら、どんなことができるか

2000年頃には、本郷3丁目に100平米ほどの部屋を借りて、「スマートルーム」という“センサーリッチ”な空間を作ったことがあります。位置情報が1cm以下で検出できるようにして、部屋に入ると、その人に合わせてエアコンの温度が調整されたり、パソコンからプリントをすると、自分がいる場所に近いプリンタから出てきたり、学生が面白いと思うものを全て作り込んで、1,000人以上のお客さんに来ていただきましたが、ほとんど何も生まれませんでした(笑)。お客さんは「面白い」「すごい」とは言ってくれましたが、使いたいか、欲しいかと問われると、微妙なものばかりだったのです。

スマートホーム系の技術は概ねそのような感じで、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)もなかなか普及しません。ないよりはあった方がいいが、必要かと言われると、そこまでではない。アメリカには、スマートメーターを100万〜200万件普及させている会社がありますが、それはセキュリティとの合わせ技によるものです。エネルギーだけでは少し弱く、もうひとつ何かとの組み合わせ必要な感じがします。

今までにないものを普及させるには、やはり強い想いを持って、どうすれば普及できるかを考えるしかありません。その必要性は、いくらお客さんに聞いてもわからないでしょう。1970年代後半にVHSのビデオデッキができた頃、開発したメーカーが田園調布の主婦の皆さんにヒアリングをしたそうです。「数十万円する高い機器ですが、これからはテレビを録画して、自分の好きな時間に見ることができます。いかがですか」と。すると、ほとんどが「いらない」と答えました。なぜなら、当時は見たいテレビがあれば、家にいるようにするのが当たり前だったからです。ビデオデッキがあれば、これまでのそうした生活パターンが変わるわけですが、普通の人にはなかなかそこまで予想できません。今までにないものの価値は、開発者にしかわからないのです。最近では、ハードディスク・レコーダーがそうでした。出始めた頃は、録画するテープが不要になったり、早送り・巻き戻しが簡単にできる程度のメリットだと思っていました。ところが、実際には番組録画の仕方がガラッと変わって、番組を全部録画して見たい番組だけを見るようになりました。このように、今までにないものの価値はユーザーにはなかなか理解できません。だからこそ、開発当事者の強い想いが必要なのです。

大切なのは「ストーリー性」

もう一つ、当事者に求められるものとして「ストーリー性」が挙げられます。その技術を何のためにつくる(つくった)のかを示すストーリーが大切なのです。僕は学生の論文を査読する時は、イントロダクションだけを読んで、面白くなかったら不合格にします。イントロに書かれていることこそが、ストーリーだからです。

アメリカに、小型人工衛星を打ち上げる「プラネット・ラボ」というベンチャー企業があります。彼らがベンチャーキャピタルに最初に説明した時は、「今まで、人工衛星は10年保証だったため、コストが高くなっていました。我々は保証期間を半年にすることで、コストを大きく下げることにより、100〜200機打ち上げます」とアピールしましたが、結果は全くダメでした。そこで、彼らは考え直し、1年後、「人工衛星が100〜200機打ち上がったら、例えばライバル店に車が何台止まっているかがわかります」と説明しました。すると、いきなり出資金が集まりました。

最初の説明は技術に関することでしたが、1年後に説明したのは顧客に対する価値でした。それがストーリー性です。技術は同じでも、説明の仕方だけで反応は全く変わります。今は、技術は十分な可能性があり、むしろ、ストーリーをどうつくっていくかにリソースを配分していくことが重要だと思います。

ストーリーをつくるためには、組織のあり方も見直すべきかもしれません。技術をベースにした企業の場合、これまではR&D主導で新しいモノをつくるやり方が主流でした。通信キャリアであれば、R&Dが現在の4Gに代わる5Gという新しい通信技術を開発しているため、R&Dの立場が非常に強いのです。しかし、技術主導で社会を変えていく時代は終わり、これからは、営業起点でストーリー重視の技術開発をしていくべきです。営業とR&Dなどの異なる部門が、組織の枠を超えてインクルージョンの状態をつくり、ストーリー性のある新しいモノを生み出していく必要があります。実際、電機メーカーの中には、研究所とデザイン部門を融合させる動きが出てきています。

スペシャリスト同士を「つなぐ」人材の必要性

また、さまざまな領域でIoTなどの技術を活用していくには、複数のスペシャリストをつなげることのできる人材も重要になります。スタンフォード大学では、法学の教授とコンピュータサイエンスの教授を3人ずつ集めて「リーガル・インフォマティクス・センター」という組織をつくりました。同センターには、「ディレクター」というスタッフが2人いて、6人の教授を言わば“ツール”として、どう組み合わせたら、どのような価値を創造できるかを考える役割を担っています。既に“ツール”は多数存在していますので、それらをうまくつなげられる人材が、これからの価値の源泉になると思います。

「つなぐ人材」の一例として挙げられるのが、地方創生とIoTをつなぐ存在の「IoTデザインガール」です。そのルーツは、NTTドコモの「アグリガール」です。同社の法人営業の有志女性社員が「アグリガール」となり、生産者、JA、ベンチャー企業、自治体、ドコモのR&Dをつなげたりしながら、ITによる農畜産業支援ビジネスのエコシステムをつくり上げました。アグリガールは全国に100名以上いるそうです。その活動を、農業だけでなく、より広範にすべての産業に展開させようというのがIoTデザインガールです。現在、総務省のバックアップを受け、さまざまな企業や自治体からIoTデザインガールを募集して、活動を始めています。

このような「つなぐ人材」は、日本には相対的に少ないように思います。アナログ・プロセスのデジタル化がさらに進む中で、さまざまな領域で「つなぐ人材」を増やしていくべきだと考えています。

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