2018/01/22 水口 哲也 氏ゲーム/メディアデザインの視点から都市設計·オフィス設計を考える 第3回 これからのオフィス設計・都市設計に求められるもの

Enhance CEO 慶應義塾大学大学院(Keio Media Design)特任教授

水口 哲也 氏

ビデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続けている。2016年にリリースしたVRゲーム「Rez Iinfinite」は米国The Game AwardでベストVR賞を受賞。

10年後に向けて留意すべき点は?

常盤橋プロジェクトのB棟が完成する10年後を見据えて、今からどのようなことに留意して設計すべきでしょうか。10年後の人々のウォンツを完璧に言い当てることは難しいですが、マズローの欲求のピラミッドを上に向かって進んでいくのは確かだと思います。一番上の「自己実現欲求」では、人間はよりクリエイティブになるとマズローは言っています。彼の説は、僕も正しいと思っています。

今後VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術が進めば、別々の場所にいてもヴァーチャルにコミュニケーションできる環境が整備されるはずです。だからこそ、2つのビルの間の大きな広場を、人々がリアルに集いたくなるような空間に設計できるかは重要なテーマです。人間はヴァーチャルに振れれば、逆にリアルも求めるようになります。人間とは、そういう存在です。また、これからのアーキテクチャとは見えるものだけではありません。デジタルの“見えないアーキテクチャ”も考えておく必要があるでしょう。見えるもの、触れるものだけではなく、情報も建築の一部になるのは間違いありません。

パーソナライゼーションも重要なキーワードの1つです。自動車メーカーのアウディが、今後の車のキーワードの1つにパーソナライゼーションを挙げています。今後カーシェアリングが普及した場合、車に乗った瞬間に、シートなどのポジションがその人にパーソナライズされた仕様に変更されると快適です。オフィスにおいても、VRやARやMR(複合現実)などの未来を考えると、同様のことが考えられます。例えば、今日の会議の続きを3週間後に行う時に、今日の終わった時点と全く同じ状態からスタートできれば、非常に効率的です。これは、集団的なパーソナライゼーションと言えます。このような視点も必要でしょう。

10年後ですから、スマートシティ的な発想は当たり前にないとまずいでしょう。自動運転が当たり前になっていて、人が運転することが禁止されている可能性もあります。そのことを考慮すると、駐車スペースはどう設計すべきか。もしかすると、不要になるかもしれません。自動運転車は、人を待っている間、道を巡回していればよく、人が呼び出せば、自動で迎えに来てくれるようになっている可能性があるからです。

これからのオフィスに大事な要素は「食」

オフィスでは、「食」が大事な要素になると思います。オフィスでは食事を取らないとか、オフィスの中にキッチンがあってはいけないといった、これまでの常識は変わるのではないでしょうか。最近のスタートアップでは、会社の中にキッチンがあって、一緒に料理を作って食べるところが増えています。仕事のやり方におけるウォンツを考えると、そうした人のつながりを生むような設計は大切だと思います。

先にお話した渋谷のエッジ・オブ(EDGEof)にも、大きなキッチンを造る構想があります。これまでは、ゲストが来るとレストランを予約していましたが、これからは、そのキッチンにシェフを呼んでディナーを用意してもらい、20人くらいで食べながら、他の階にいる人も紹介できるようにした方が、楽しいし効率がいいという考えからです。

さらに10年後を想像すると、多くの人が自分の好きな場所で仕事をするようになっているかもしれません。ミスルトゥの代表で、エッジ・オブのファウンダーの1人でもある孫泰蔵さんは、ランチタイムをコアタイムにすべきでは、と言っています。昼食はみんな食べますから、それなら昼間の3時間をコアタイムにして、オフィスに集まって昼食をとりながら大事な話をしたり、議論しあったりすればいいという発想です。彼は、多くの人がどこでも仕事ができるようになれば、これからのオフィスに求められるのは、レストランやカフェのようにくつろげて食事や話ができて、イベントもできるような空間であり、もはや従来のように机がぎっしりと並ぶような場ではないでしょう、という話です。

10年先を見据えて、今からオフィスやホテルなどをドラスティックにデザインするのは難しいものです。でも、これから出てくるさまざまなウォンツに対応できるように、電気やネット環境、そして水回りなどのインフラに柔軟性があれば、ほとんどのことは内部的な改装で対応できると思います。

つくり手の思いがなければ、良いものはできない

常盤橋プロジェクトのウォンツを明らかにするには、そこに集う人々の属性を分けて、それぞれの欲求をつぶさに見ていくことが必要でしょう。例えば、一口にビジターといっても、日本人、外国人、年齢別、性別によっても、その欲求は違います。これだけ大規模なプロジェクトだと、さまざまな人々の多様なウォンツを目の当たりにするでしょう。間違いなく圧倒的な量だと思いますが、しかし、それらの欲求を、どのように循環させるかというテーマは、本プロジェクトの重要な設計思想になると思います。

前回、「最初に仮説は立てない」という話をしましたが、つくり手の「想い」はとても重要だと思います。都市設計なら、どんな人たちに一番いてほしいのか、来てほしいのか。この人たちが必ずいないとだめだ、という人たちがいるはずです。近辺にはオフィスが多いので、オフィスを利用する人たちをメインにしようということであれば、その人々を中心に考えたコミュニティづくりになるでしょう。ただ、それだと丸の内と変わらないかもしれません。もし、常盤橋をさまざまな人が集う祝祭空間にしたい、人々に支持され、愛される新たな場所にしたいということであれば、近隣住民やインバウンドの外国人など、外部から人を呼び寄せるための磁力を生み出す必要があります。どんな属性の人に集まってもらい、どういう場所を生み出したいのか。そこは、この場所をつくるリーダーがどういう思いを持つかにかかっていると思います。

この場を利用してほしい人たちの属性が見えてくれば、その人たちの欲求を属性ごとに因数分解して、例えばオフィスを利用する人たちのウォンツ、住んでいる人たちのウォンツ、外国から訪れる人たちのウォンツなどをつぶさに見ていき、そのうえで、どのような磁力を持った空間にすべきなのか(What)を考えます。基本の設計思想がブレなければ、あとは時代の進化に合わせて手法(How)を変えていけばいいでしょう。

居住者がいることで街は活性化する

個人的には、常盤橋に集うのは本当にオフィスを利用する人たちだけでいいのだろうか、と思います。居住者なくしては、いろいろな意味で盛り上がらないのでは、とも考えます。僕は赤坂近辺に住んでいて、週末たまに日本橋まで散歩しますが、途中、周辺に住んでいる人が少ないため、週末は本当に閑散としています。住む人が増えれば、そこで生活をしますから、街に活気が出てきますよね。

もし、常盤橋にレジデンスがあれば、周りにはオフィスがたくさんありますし、すぐに東京駅から新幹線でどこへでも行けます。空港へのアクセスもいい。日本橋まで歩けばデパートもたくさんあり、毎朝、皇居の周りを散歩できます。都心での自転車のシェアリングも充実しています。住みたい人はたくさんいるのではないでしょうか。居住を前提に考えれば、最先端の医療を提供できるクリニック、食の欲求を満たせるレストランやスーパーマーケット、スクールもテナントとして考えられます。週末も閑散とすることはありません。常盤橋に住む人が増えれば、丸の内から日本橋までの辺りが繋がり、新しい人の流れもできるでしょう。今後は、週休3日など、休日が増えることも考えられます。その面でも、居住者を増やすことは有効だと思います。

六本木ヒルズが他のビルと一線を画しているのは、居住空間を含めたイメージがあるからです。「あそこに住んでみたいな」という憧れも、一帯のブランディングに寄与していると思います。住んでいる人たちのライフスタイルは、入居している店舗のクオリティにも反映されています。土日でも閑散とした感じはありません。

常盤橋プロジェクトが完成するまでの10年間は、多くのインフラやプラットフォームが激変する難しい時期だと思いますが、ぜひ、常盤橋にしかできない、新たな都市型のエコシステムをつくってほしいと期待しています。

Editors’ INSIGHT

シリコンバレーなどイノベーションの拠点として知られている街では、様々な属性の人たちが集まり、活動し、それぞれのウォンツを満たす、という循環が繰り返されることで、イノベーション拠点としてのコミュニティが形成されてきました。
社会の変化のスピードが加速する中、変化し続ける人々のウォンツを満たす拠点となるために、常盤橋が提供すべき体験価値とは何か。その体験を下支えする空間設計を、ソフト・ハードの両面から考えていきたいと思います。

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