2018/01/15 水口 哲也 氏ゲーム/メディアデザインの視点から都市設計·オフィス設計を考える 第2回 クリエイティブは“独裁制”から“民主化”へ

Enhance CEO 慶應義塾大学大学院(Keio Media Design)特任教授

水口 哲也 氏

ビデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続けている。2016年にリリースしたVRゲーム「Rez Iinfinite」は米国The Game AwardでベストVR賞を受賞。

ウォンツを因数分解するには

ウォンツは、人の属性によって異なります。ゲームデザインであれば、プレイヤーや傍観者という属性。街づくりであれば、そこで働いている人、住んでいる人、国内のビジター、外国からのビジター、それぞれの属性ごとに、ウォンツを細かく因数分解して可視化する必要があります。

ウォンツを因数分解する基本的なやり方を紹介しましょう。まず、人々の属性を挙げて、それぞれの属性ごとに人々が持っているウォンツを、プロジェクトに携わるメンバー全員で洗い出します。この時のポイントは、欲求を名詞ではなく、動詞で書き出すことです。

例えば、単に「快適」を挙げるのではなく、快適をどうしたいのかを考えます。自分が快適になりたいのか、人を快適にしたいのか、快適を分かち合いたいのか、自分の家族を快適にしたいのか、そういう属性による違いを全部書き出します。その上で、因数分解をします。自分が快適になりたいのであれば、「なぜ快適になりたいのか」と問いかけます。すると、その裏側には別のウォンツが隠れていることがわかります。例えば、「幸せな気分で仕事をしたいから」あるいは「スタッフと幸せな気分を分かち合いたいから」とか。割り切れないところまで行き着くと、それは最大公約数的な欲求に近づきます。

「旅がしたい」というウォンツも、その裏側にはたくさんのウォンツが隠れています。「おいしい物を食べたい」「一人でリラックスしたい」「友人と共有したい」「好奇心を刺激したい」など、同じ「旅がしたい」であっても、その裏側に隠れているウォンツは、異なります。

このようにウォンツの因数分解をやっていくと、それぞれの属性で、人々の気持ちがある程度可視化できるようになります。このプロセスをプロジェクトのメンバー全員で共有すると、外側からは見えない、人間の欲求の向かう先=欲求のベクトルと向き合うことになるのです。

テクノロジーを活用した因数分解でウォンツの精度を高める

インターネットやソーシャルメディアが普及した現在は、より高い次元で因数分解を行う必要が出てきています。その背景として、テクノロジーの分解能が上がったことで、人々のウォンツも「量子化」が進んだのだと思っています。昔は望んでいても、実現不可能なことがたくさんありました。今や、誰もがスマホからショッピングをしたり、世界中どこからでも友人に「いいね」をしたりと、欲求を手軽に満たす機会が増えました。ウォンツがこのように細かく量子化したことで、つくり手の側も、より解像度を上げないといけません。昔は10考えればよかったところが、今は100考えなければいけなくなっています。

しかし最近では、テクノロジーの力を借りることで、そのプロセスをショートカットでき、人間はより高い次元の設計に注力することができるようになってきました。注目しているテクノロジーの1つに、クリエイティブ・ブレインズの鈴木一彦さんが考案した「スキャナマインド(Scanamind)」というものがあります。量子数理の法則を用いて、人間の深層心理を可視化することができるツールです。

少し前に、とある家電メーカーから、これから未来のスマートフォンをどうデザインしていくべきか、コンサルティングの依頼を受けたことがあります。そこで、スキャナマインドを利用して10代から70代までの男女のウォンツを抽出し、可視化することを試みました。スキャナマインドは、回答者が自ら設問を作っていくことで、自分自身が普段意識していない「無意識」を可視化できるような仕組みになっています。ここに人々の欲求を放り込んで、「集合欲求」を可視化しようという発想です。例えば、「落としても壊れないスマホが欲しい」という欲求と、「どこでもインターネットにつながりたい」という欲求が出てきたら、その2つの欲求の関連性の「強さ」を、5段階で答えてもらいます。それを繰り返し行うことで、1人の人から出された複数のウォンツの、それぞれの関係性、位置関係のようなものが立体的に可視化されます。それを数千人に行うことで、数千人のウォンツの傾向を立体的に俯瞰することができます。そこから、潜在的な強いウォンツだけど、今の時代には実現されていない、ここを実現するといいかもしれない、というエリアが見えてきます。

この調査では、世代別・性別のあらゆる属性ごとに、スマートフォンに求めるウォンツが大きく違うということがわかりました。例えば、女性はスマートフォンをよく落とすようで、防水や壊れにくいものが欲しいというウォンツが強く出ました。また、同じ女性でも、20代と30代のウォンツが大きく変わり、30代で男性的な欲求が強くなる傾向も見られました。おそらく、会社で仕事を始めた影響だと推測されます。このように、ウォンツというのは、属性によって大きく異なりますし、本質的な欲求もあれば、時代とともに変化していく欲求もあります。このように、まだ顕在化していない人々の欲求と対峙してゼロから1を探り当てるのは、非常に面白い試みでした。

最初に仮説を立てない

このプロセスで重要だったのは、一番最初に仮説から入らないことです。あらかじめ「こうであるだろう」と決めつけず、仮説はデータが揃ってから考えます。これまでのクリエイティブでは、トップクリエイティブディレクターが最初に仮説を立て、そのコンセプトのもとにプロジェクトが進められていました。データや調査は、その仮説を裏付けるために必要だったわけです。もしその仮説が間違っていた場合、プロジェクトは失敗します。このやり方は、「クリエイティブの独裁制」とも言えます。今までは、自分もそうやってプロジェクトをおこなってきました。しかし、デザインするものの規模がどんどん大きく複雑になり、形のあるもの(アナログ)から形のないもの(デジタル)まで多岐に渡ると、一人の考えで大規模なものを全て設計することは、どんどん難しくなってきます。スキャナマインドのようなツールを使って、データを量子化し、検証し、議論し、そこから仮説を立てるようなやり方は、いわば「クリエイティブの民主化」に近づくのかもしれません。

クリエイティブが民主化されると、クリエイティブディレクターの役割は、よりレベルの高いものになります。今までは、富士山の一番下から登っていたところを、7合目くらいから登れるようになるので、残りの3割に全エネルギーを集中することができます。なかには、面白みがなくなるという人もいるかもしれませんが、クリエイティブのレベルをさらに上げることに繋がるだろうというのが実感です。

スマートフォンに対するウォンツはシンプルですが、都市開発のような大きなテーマになると、属性の数が増えますし、多様なウォンツの集合体になります。そのため、それぞれの属性ごとにウォンツを分析する必要が出てきます。例えば、もしインバウンドの外国人にも訪れてほしい場所であるなら、そういう人たちがどのようなウォンツを持っているかということも因数分解しなければなりません。このレベルになると、設計しなければならないのは、さまざまな属性を持った人たちのウォンツが循環して自ら化学反応を起こすような、1つのエコシステムだと思います。どうすれば、人々がそこに集いたくなり、そこに愛着を感じ、最終的にエンゲージメント(結束)に結びつけられるような設計が可能なのか、そんな設計思想が重要になると思います。

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