2018/05/21 松嶋 啓介 氏現代人に求められている「食」の力とは 第2回 外国人は日本に何を期待しているか

KEISUKE MATSUSHIMAオーナーシェフ 実業家

松嶋 啓介 氏

20歳で渡仏、各地で修行を重ねた後、25歳でニースにレストランをオープン。現在はニースと東京・原宿に「KEISUKE MATSUSHIMA」を構えるほか、ニースでは数店舗を手がける。2010年、フランス政府よりシェフとして初かつ最年少で「芸術文化勲章」を授与される。

売るべきはモノではなくコト

近年、訪日観光客が急増していますが、その一番の理由は訪日ビザの発給要件などが緩和されているからで、各地域の人たちのプロデュース能力で外国人を呼ぶことができているかというと、そうは思えません。

日本の観光のダメなところは、観光を通じてモノを売ろうとしているところです。売るべきは、モノではなくコトです。もしスペインを観光していて、トマト祭りをやっていると知ったら、行きたくなりますよね。それは、トマトというモノを買いたいのではなく、祭りというコトを体験したいからです。コトを売れば地域の人たちみんながハッピーになれます。

今の日本には、2パターンの価値観を持った人がいます。1つは、高度成長期やバブル期を体験してきた世代を中心とした、お金を稼いで物質的な豊かさを求める「モノ重視」の価値観。もう1つは、ミレニアル世代を中心とした、質素でいいから、好きな人と仲良く暮らしたい、という「コト重視」の価値観です。そして、後者の価値観を持った人たちが着実に増えてきている。豊かさの捉え方が、変わってきていると感じます。

ヨーロッパに多いのは、後者の価値観を持った人です。自分の時間や家族と過ごす時間を取れていれば、多少給料が減っても気にしません。でも日本では、給料が減ると今の生活が維持できなくなると感じますよね。それは、消費社会の中で生きているためで、お金がないと不安に感じてしまうんです。モノに囲まれた生活よりも、「どのように暮らすか」というコトを重視した生活の方が本当の豊かな生活ではないかと思います。

「どのように暮らすか」というライフスタイルを教えてくれるのは、現代においては雑誌をはじめとするメディアですが、昔は宗教がそういう存在でした。生まれてから死ぬまで、どうやって暮らすことが幸せなのかを教えてくれていたのです。

常盤橋プロジェクトに期待したいのは、現代をどのように生きれば幸せなのか、という「生き方」を提案することです。外国の人たちが日本に期待しているのは「情緒」です。今、ヨーロッパでは閉塞感が漂っていて、殺伐とした空気もあります。そんな中で、日本にある情緒的な生き方に憧れを感じているのです。日本の仏教関係者がダボス会議に参加すると、「仏教ってなんですか」「禅ってなんですか」とよく聞かれるそうです。それは、日本に対する期待の表れです。しかし、日本人はそのことに気づいていません。常盤橋には、日本の伝統文化をベースに、現代にアップデートされた情緒的なライフスタイルを学べる街になってほしいと思います。

視覚が味覚を変える

日本酒の海外でのプレゼンを見ていると、日本人はプレゼンがヘタだなと思います。日本酒の味見以外は、パンフレットを用意して原料や造り方などのディテールを見せるだけです。もっと大事なことは、景色を見せること。ヨーロッパでは、ワインをプレゼンする時は、そのワインが造られた地域の気候風土を視覚的に訴えます。すると、ワインを飲む時に景色が浮かぶんです。

人間の味の記憶は「自分が見たもの」です。例えば、リンゴの味をイメージしてください。リンゴの絵が浮かんできませんか? 視覚と味はリンクしているんです。僕が今、注目しているのは、VRを使った日本酒のテイスティングです。その酒が造られた地域の風景をVRで見てもらい、その上で試飲してもらう。そうすれば、飲んだ人は、「こんなに素晴らしい景色から生まれたから、こんなにやさしい味がするんですね」と感じて、その場所に行きたくなるはずなんです。

実は今、料理とワインの組み合わせに合った景色を部屋全体に映し出す仕組みをつくろうとしています。異なるワインが出てくると、そのワインのラベルをスキャンすると景色が変わる。つまり、食べ物に合わせて景色も変化する環境で、景色と食事を一緒に楽しんでもらう仕組みです。精神的に疲れている人は、自然に癒されると治ると言われていますが、食事でもそれができると思っています。そこにさらに音も加えて、五感を刺激することで認知症予防にもつながるのではないかと考えています。

昨年の夏休みは、家族3人でシチリアで過ごしました。現地で地元シチリアのワインを飲みながら、ふと「今度シチリアのワインを飲む時には、家族で楽しく過ごしたことを思い出すな」と思ったんです。場所はニースでも日本でも、シチリアのワインを飲めば、家族の記憶が戻ってくる。景色と食事がリンクした時の強さを感じました。ワインを、そういう景色を知っていて飲むのと、ブドウの品種や造り方などの知識で飲むのとでは味わいが大きく異なるはずです。

「Alcohol(アルコール)」という言葉は、もともとアラブ語の「The cool(ザ・クール)」に由来します。また、別の説では、「精霊(Spirit)」や「悪魔(Demon)」という意味もあります。つまり、景色を知って飲んでいる人たちは“クール”なんです。以前の楽しい思い出と共に美味しく飲むことができるから。でも、景色を持たない人は品評してしまう。その結果、飲み過ぎて“悪魔”になるんですね。そう考えると、東京でお酒を飲んでいる人たちは、上司の愚痴を言いながら、ほぼ“デーモン飲み”している(笑)。でも、収穫を体験したりすると、絶対に変わります。例えば、稲刈りを手伝った米のご飯を食べると、ホッとします。それは、景色を見ているからです。景色と食事がつながれば、人はもっと癒されるはずです。

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