2018/09/10 加藤 貞顕 氏インターネット時代のコミュニティのつくり方 第1回 「cakes」「note」を始めた理由

ピースオブケイク 代表取締役CEO

加藤 貞顕 氏

アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)などベストセラーを多数手がける。2011年ピースオブケイクを設立。2012年9月にcakesを、2014年4月にnoteをリリース。

編集者の仕事は「本を作ること」ではない

僕はもともと、出版社で本の編集の仕事をしていました。編集者の仕事は、クリエイター(著者)=何かを伝えたい人、メッセージを持った人の手助けをすることです。つまり、「こんな本を作りましょう」とコンセプトを作るところからお手伝いして、実際に製品を仕上げて、売るところまで担当する。一般的には作るだけのイメージが強いと思いますが、実は売る方が重要なんです。なぜなら、クリエイターが本当にやりたいことは「伝える」ことであって、本を作りたいわけじゃないんですよ。ディベロッパーも、本当はビル造りそのものじゃなくて、みんなに快適に過ごしてもらうためにビルをつくるわけじゃないですか。それと同じような話で、クリエイターが生み出したコンテンツをちゃんと読者に届けることが、編集者の大事な仕事なんです。

出版というのは、ビジネスモデルが強固で、100年間くらい続いている非常にレアな業界です。なぜこんなに長く続いたかというと、実は流通機構が優れていたからなんです。取次や書店という仕組みがあることによって、クリエイターや出版社は基本的に作ることに集中することができました。本を作って取次に渡すと、全国の何万という書店に配ってくれて、お金まで回収してくれる。流通機能が非常に優れているおかげで、クリエイターは非常にモノづくりがしやすい環境がありました。しかし、このビジネスも、インターネットに押されてだんだんやりづらくなってきました。出版市場のピークは1996年で、その時2.6兆円だった市場が、今は1.3兆円と半減してしまいました。

僕がやりたいことは、出版社にいた頃から変わっていません。それは、クリエイターのメッセージを届ける手助けをしたいということです。それを、インターネットが普及した状況でどうやればいいか。それを考えないといけない。編集者としてやるべきことは、本を作ることではなく、メッセージを届ける手伝いをすることなので。そうすると、必然的にウェブ上で新しい流通の仕組みをつくることが必要になる。それをやるべきだと思って、この会社を始めました。

ウェブサイトを無料ではなく課金制にした理由

最初に始めたのが、課金制のコンテンツ配信プラットフォームであるcakesです。ネット上でコンテンツを届ける一般的な仕組みとして、ウェブサイトを無料で見せて広告を掲載する方法があります。でも、それだとあまり儲かりません。ウェブで広告収入型のメディアをやって、めちゃくちゃ儲かっている会社ってあまりないんですよ。元締めの会社、たとえばグーグルは儲かるんですが(笑)。

メディアが健全に機能するためには、やはりお金を継続的に稼げることが大事です。そうでないといいモノ作りはできません。これは作り手の実感としてすごくあります。日本の出版産業は世界でも大きなほうですが、かつての出版はそれができていました。その理由は、実は流通機構が優れていたおかげなんですね。そこに優秀なクリエイターが集まって、非常に伸びてきたという背景があります。

それがインターネットの普及に連れて、だいぶ辛い状況になってきて、ネットに新しい流通機構が必要になってきた。もちろん広告もいいんですが、それだけではなくて、ちゃんとお客さんからお金をもらう仕組みが必要だということで、クリエイターの周りにいる人間として、必然性から課金型のビジネスを始めました。

当初、ネットでお金を取るのは難しいとみんな思っていたみたいですけど、僕はそうは思っていませんでした。確かに始めた時点では難しかったですけど、将来は当然のことになるだろうという確信はあったんです。なぜかというと、既にその時点でネット通販はかなり普及していました。

たとえば10年くらい前まで、「インターネットで買い物をするなんてとんでもない」とみんな思っていましたよね。「クレジットカードの情報を入れて大丈夫なのか」とか。だけど、今では田舎の親世代でさえ、ネットで買っています。それくらい変わりました。でも、当たり前なんですよね、だって便利なんだから。そして、コンテンツをネットで買うのは、物流が入らない分、もっと簡単なんです。だから、ネット通販が当たり前になったように、コンテンツ課金も当たり前のものになると思っていました。

ただ、もちろんそれは習慣の変化なので、そもそも時間がかかるんです。そこもある程度は覚悟はしていました。現在はネット上でのコンテンツ課金はだいぶ当たり前のものになりましたよね。日経新聞電子版の有料会員は60万人もいますし、ゲームやスタンプでも課金しますし、有料動画配信サービスの利用者も増えています。だいたい新しいものが世の中に普及するのって、基本的に10年かかるんですよね。スマートフォンも今は当然のようにみんな使っていますけど、日本で最初にiPhoneが発売されたのは2008年で、ここまで来るのに10年かかっています。みんなの気分が変わるには、結構時間がかかるものなんです。

インターネットは「民主化する装置」

僕はインターネットを黎明期から使っています。まだみんなが使っていない90年代前半、学生時代に、大学にすごく細い専用線が引かれていて、大学の情報センターに無理矢理頼み込んでアカウントをもらって使っていたくらいです。その時からずっと思っているのは、インターネットは何もかもを「民主化する装置」だということです。

だから、ネットでのコンテンツ配信を考えた時に、従来の出版社と同じような仕組みでやるのは、そもそも違うと思っていました。メディアが変わったわけですから、仕組みが変わるのはある意味当たり前で、インターネットに合った伝え方、やり方があるはずなんです。

出版社というのは、本や雑誌というリアルな「モノ」を作っているからこそ必要な仕組みです。モノを作るためには資本が必要です。これは働き方の話とも関係しますが、会社というのは、ビジネスをするには大きな資本が必要だったから存在するんです。丸の内の土地も、個人では買えないから三菱地所があるわけで(笑)。三菱地所の蓄積した資本なり信用なりによって、さらに資金調達をして買うことが可能になるわけです。つまり、会社とは信用や資本を蓄積する装置なんです。

それが、インターネットが登場したことによって、分野によっては会社が必要なくなりつつある。その一つがメディアです。以前は、メディアを持つにはコストがかかりました。例えば、新聞を発行するには印刷所を持つ必要すらあった。だから大資本が必要だったわけです。ところが、インターネットが普及すると、誰でもホームページを作れるようになって、資本がなくても人にメッセージを伝えることができるようになった。そのために、コンテンツの作り方や、クリエイターとそのファンとの関係性が変わるのは、ある意味当たり前なんです。

インターネットができる前は、コンテンツを発表できる規模によって“段差”がありました。本を出すためには、一定数の読者が必要で、例えば1,500円の本が5,000部くらい売れる必要があります。それには資本が数百万円くらいかかる。だから、それをクリアできるコンテンツしか出せませんでした。でも、本当は500人の読者に向けたコンテンツがあってもいいし、逆に1000万人に届くコンテンツがあってもいいわけです。本だと、規模が大きすぎてもやりにくいんです。でもネットなら、YouTubeのように面白い動画を作れば数千万人でも数億人でも、世界中の人々に届けることができる。だから、ネットによってスモールなところから超ラージなところまで、一直線につながり、どんな規模でも流通させることができるようになった。これがネットの本質であり、noteのようにCtoCで誰でもコンテンツを発表できるようするのは、当たり前のことだと思っています。

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