2017/07/18 入山 章栄 氏「イノベーションが生まれる都市の条件」 第3回 2050年、都市の未来はこう変わる

早稲田大学ビジネススクール准教授

入山 章栄 氏

1996年慶應義塾大学経済学部卒業。98年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。 三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号を取得。 同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーに就任。2013年から現職。

住む場所と働く場所の距離

最近は、大型ビル開発で、住むところと職場を一体化させる試みもあるようです。確かに、これからは、一般に「住むところと働くところが近づいて行く」と言われています。ただ、極端に「同じビルの中に住居と職場があった方がいいのか」までは、私にもわかりません。むしろ大事なのは、住居がその場にあるかどうかよりも、その場で何を提供するかだと思います。外国人投資家を呼び込むのであれば、充実したインターナショナルスクール、最高のレストラン、とてもくつろげる森林とかが施設の中にあるなら、それだけでも十分かもしれません。

逆に、住まいから職場まで少し歩くのが楽しいという人は結構います。そういう意味では、東京駅周辺で働く外国人を増やすには、やはり神田辺りに住居があるといいかもしれませんね。特に、古本屋さんがあって、大学があって、感じの良いレストランもある神保町は、私個人は「東京のパリ」と呼んでいます(笑)。神田か神保町にインターナショナルスクールをつくって、大きな公園を整備すると面白いかもしれませんよ。あるいは、住居に関しては豊洲と連携することも考えられますね。

日本の都市開発は、どうしてもそれぞれの拠点ベースで単独の開発になりがちで、結果、どこも似たようなものになる傾向があります。そうではなくて、周辺の地域も含めて、もう少し大きな視点で手がけられるといいですよね。

そして、欠かすことができないのが、第2回でも述べた「ぼーっとできる場所」です。例えば神田であれば、神田明神を活用できるといいですね。最近、ベンチャー企業の経営者などが軽井沢に住むケースが増えています。軽井沢なら、東京まで新幹線で通勤することができます。中には都心の超高層ビルに住みたいという人もいるかもしれませんが、都心から少し離れて、ぼーっとできる場所に住みたいという人は多いと思います。

お金のある人たちなら、週末だけ過ごすセカンドハウスを買うこともできるでしょう。常盤橋からだと、歩いて10分もあれば新幹線に乗れますから、JRと連携して、軽井沢のように自然の豊かな場所を住宅地として開発することも考えられます。

高層ビル群から生まれるイノベーション

これまで述べているように、イノベーションが生まれるきっかけは、多様な人たちが出会うことに尽きます。以前、日本のある自治体が、数々のユニークな事業で注目されているベンチャー企業を誘致しようとして、高層ビルの最上階を用意したことがあります。しかし、そんなことをしても、その企業をビルの最上階に閉じ込めるだけで、「偶然の出会い」は起こりません。それよりも、街中にカフェをいくつかつくってWi-Fiを設置し、その近くにベンチャーを誘致した方が、多様な人と人との偶然の出会いが生まれまるでしょう。

問題は、果たして「東京のような高層ビルで、このような多様な人たちが出会える場所がつくれるのか」です。常盤橋プロジェクトに限らず、これは東京のこれからの大きな課題です。高層ビルは広い面ではなく、多層のフロアに分かれてしまうからです。結果、偶然の出会いが起きにくくなりなります。この問題が解決できるかどうかが、今後の東京の浮沈を握る一つだと私は思っています。

一つの案としては、エレベーターホールなど、必ず人が通る場所に、カフェやフィットネスジムなど、人と人が偶然出会えるスペースをつくること。また、おそらくこれからは、まさに働き方改革で、オフィスの中もフリーアドレスになったり、出退勤が自由になったりするでしょうから、そういう変化に対応していくことも必要です。ビル全体をコワーキングスペースにして、誰もがどこででも働けるようにするのもよいかもしれません。

今後はリモートワークも進むと思いますが、前半で述べたように、人と人が顔を合わせないまま働き、会社としての競争力を保つのは難しいと私は思います。これまで述べてきたように、知と知の新たな組み合わせの機会を増やしたり、フェイス・トゥ・フェイスでのやりとりが重要です。それだけに、直接対話の場となるオフィスの重要性は変わりません。働く場所の選択肢が増えた分、社員がいたくなるようなオフィス空間にする努力が、従来にも増して必要になってくると思います。

下手でもいいから、英語を公用語にするという手段

出会いのきっかけづくりのために、地主側が大きなイベントを仕掛けることがありますが、それよりも「偶然の出会いが自然に生まれるような場を用意すること」が大事です。スタートアップが集まる渋谷でも、大きなイベントによって何かが起こっているわけではなくて、それぞれがカフェで勝手にやりとりをしているのです。スタートアップの新たな集積地となりつつある五反田も、自分たちで勝手にイベントスペースをつくってイベントをやっています。あくまで自然発生的なのです。

最初からマーケティングをしてターゲットをがっちり決めてしまうと、自由がなくなってしまいます。スタートアップの人たちの考え方や好みも時代によって変わりますから、自由にリノベーションできるイベント空間を用意しておくといいのではないでしょうか。

また、海外から多様な人を集めるには、英語がカギになります。言葉の壁は、日本のイノベーションを阻んでいる決定的な要因の一つです。必ずしも英語が上手である必要はなく、下手でもいいからしゃべった方がいい。一層のこと、「常盤橋では英語を公用語にする」のはどうでしょうか。ポイントは、下手な英語も受け容れるようにすること。言葉のバリアがなくなった瞬間に、海外から人も投資も集まるようになるでしょう。

街づくりは30年先の未来を考えるべき

刺激を与えるためのコンテンツは重要です。例えば、アメリカの投資家や富裕層にはクラシックを聴く人が多くいます。彼らのニーズに応えるには、自前のオーケストラを持つと良いかもしれません。ただ、コンテンツをいくつもつくる必要はないでしょう。東京であれば、どこかへ出かければ、さまざまなコンテンツが観られますから。ですから、マーケティングをしてあれもこれもと欲張るよりも、自分たちの主観で「常盤橋ではとにかくこれをやりたい!」ということを一つ決めて、大々的にやる方が面白いかもしれません。

イノベーターというのは、目先の3年先や10年先ではなく、30年先とかの遠い将来を見ていることが多いんです。ソフトバンクの孫さんや日本電産の永守さんもそうです。テスラCEOのイーロン・マスクは、人類の将来を心配して火星に行こうとしているくらいですから。

街づくりにおいても、大切なのは将来のビジョンを持つことです。常盤橋の場合、ビルが完成してから20〜30年先の「2050年や2060年に東京はこうあるべきだ」というビジョンを描き、そこからバックキャストで構想を考えるべきだと思います。

施設を利用するのは、現在のお客さんではなく、将来のお客さんですから、マーケティングにとらわれすぎてはいけません。2050年の社会はどうなっているかを考えると、自家用ドローンが当たり前になっていたり、宇宙エレベーターが実現しているかもしれません。ですから、常盤橋にはドローンの発着場所を設けることは、すごく重要かもしれませんし、もっと大胆に言えば、屋上に宇宙エレベーターのプラットフォームを用意するのも面白いでしょう(笑)。

大事なのは、我々はどうしても2017年の現在の視点で、未来を見がちで、想像力が乏しくなることです。都市開発は短くとも30年先、できれば50年、100年先を見なくてはなりません。常盤橋が真価を発揮すべきは、2050年頃です。その時に社会はどうなっているのか、あるいは、みなさんが常盤橋と丸の内を通じて、2050年にどういう社会を作りたいのか。それを考えることが何より重要なのです。

Editors’ INSIGHT

インターネットの普及やITの発展により、いつでもどこでも誰とでも簡単に繋がりを持てる世の中になっても、イノベーションを生み出す大事な要件の1つが「多様な人とのリアルな繋がり」であるというのは、人々がフェイス・トゥ・フェイスで集まるための“空間”の必要性を常に考えてきた私たちにとって、とても心強い事実だと感じます。

今回の対話を通して、イノベーションへの期待感を抱かせる“空間”にこそリアルに人々を吸引するパワーが備わることもわかりました。
未来の都市では、人々は今よりもっと自由に働き、遊び、くつろぐ。そこでどのような“空間”が必要とされるのか。
今後、TIRでの対話を通して、私たちがその問いに対する答えを導き出すヒントを、少しずつ集められたらと思います。

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