2017/07/10 入山 章栄 氏「イノベーションが生まれる都市の条件」 第2回 世界で東京にしかない魅力、東京ならではの課題

早稲田大学ビジネススクール准教授

入山 章栄 氏

1996年慶應義塾大学経済学部卒業。98年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。 三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号を取得。 同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーに就任。2013年から現職。

ぼーっとできる空間の必要性

第1回では、イノベーションが生まれる都市の条件として、「多様性」を挙げました。
そのほか重要な条件として、「ぼーっとする時間が過ごせること」があると思います。経営学的な根拠があるわけではないのですが、神経科学の視点や、私個人が多くの経営者と交流させていただいている経験から、そう感じています。アルキメデスが浮力の原理を発見したのは風呂に入っている時でしたし、アインシュタインが相対性理論を思いついたきっかけは、寝ている時に見た夢のイメージだったといわれています。イノベーションの源泉である創造性は、「ぼーっとした時」に来るのです。

実際、神経科学では、脳がぼんやりとした状態の時に「デフォルト・モード・ネットワーク」という活動が起こり、ひらめきや思いつきがもたらされることが少しずつわかってきています。そう考えると、「ぼーっとできる場所があるか」どうかも、イノベーションが生まれる都市の条件と言えるでしょう。

実際、シリコンバレーは実はすごい田舎ですから(笑)、ぼーっとできる時間が取れます。東京のような大都市では、ぼーっとできる空間をどう確保するかが課題と言えるでしょう。まず、挙げられるのが公園や緑地のさらなる充実ですね。渋谷なら、近くにある代々木公園をもっと活用すべきだと思います。個人的には水辺も重要だと思っていて、今、二子玉川に若い世代が移って来ていますが、これは多摩川を見ながらぼーっとできることが潜在的に大きいと思っています。

東京で公園の他に注目すべき場所はどこか。私は神社やお寺がその有力候補になると考えています。静寂なお寺では、ぼーっとできますよね。シリコンバレーでは今、マインドフルネスがブームになっていて、禅に興味がある人も多い。 寺院を外国人にも解放したら、海外の優秀な人材を誘致できるかもしれません。東京は、もっと神社やお寺を活用すべきです。

東京からイノベーションを起こすために必要なこと

私はアメリカで10年間過ごして、2013年に日本に帰ってきました。その理由は、東京が大好きだからです。私は東京生まれの東京育ちで、「日本に帰る」のではなく、東京に帰って来たかったのです。

東京の良さは、それぞれのエリアごとに多様な顔を持っていて、常にダイナミックに変化しているところです。皇居を中心にして、谷中に行けばお寺がいっぱいあってぼーっとできるし、秋葉原に行くと電気街があり、神保町に行けば古本屋さんやカレー屋さんがいっぱいあって、六本木に行くと外国人がたくさんいて、丸の内に行ったら颯爽としたビジネスパーソンがいる。この多面性はとても面白いし、これだけ魅力のある都市は、世界を見渡してもそうないと思います。

逆に東京の問題は、世界の多都市と比べても面積が大きすぎて、せっかく多様な人がいても、それらが散らばってしまい、互いに出会いにくいところです。シリコンバレーはとても狭いエリアですし、ニューヨークのマンハッタンも半日あれば横断できるほどの大きさです。パリは世田谷区くらいの広さしかありません。それらに比べると、東京は明らかに面積が広すぎて、人の交流が全体で起きにくいのです。

そのため「若者の街は渋谷」「大人の街は丸の内」といったように、街ごとにカテゴリーが分かれています。それはそれで大人にとっても若者にとっても快適なのですが、そのままでは同じ種類の人しか集まらず、新たな知の組み合わせができにくくなります。そもそも人間は、「ホモフィリー」といって、自分と近い人と付き合いやすい傾向があります。それだけに、自分とは異質な人と出会える場を意図的につくることが重要なのです。

以前、東京駅周辺で渋谷のスタートアップを呼ぼうとする取り組みがあったようですが、その時はあまり浸透しませんでした。理由は、ジーパンにTシャツのスタートアップの人たちは、バリバリのスーツを来た人たちが闊歩するオフィス街では浮いてしまい、それを窮屈に感じてしまうからです。

理想は、そんな違いを乗り越えて、圧倒的な多様性を受け容れられる場所を作り出すことでしょうね。広い東京の中で、さらに多様な人がある程度住み分けながら、しかし時に自然に交流し、偶然の出会いを促す集積力、この多様性と集積力の掛け合わせが、東京をさらなるイノベーション都市にする基本条件なのです。

優秀な外国人が滞在したくなるような場所をつくる

では、常盤橋や丸の内エリアがイノベーション地域となるために、具体的にどのような施策を行えばいいのか。
まず、多様な人たちが集まる場所をつくるための一つの方法として私が面白いと思っているのは、海外から一流のベンチャー投資家などを呼ぶことです。これからのイノベーション社会では投資家の役割がさらに高まります。スタートアップにはエンジェル投資、VC投資が欠かせませんし、こういった投資家が日本で潜在力のある中堅企業に投資してくれることも重要です。特に海外の投資家は、資金力はもとより、さまざまな知見や海外人脈を持っており、まさに「知と知の組み合わせ」を起こしてくれるからです。

そこで欠かせないのが、こういった投資家や海外のビジネスパーソンに、「長期にわたり滞在してもらえる場所」をつくることです。

以前、京都の方々から、「シリコンバレーに視察に行きたい」と相談を受けたことがあります。京都には優れた地場産業が数多くあり、これまで日本電産やローム、村田製作所などの優良企業が出てきました。しかし、最近は少し閉塞気味のため、現状を打開するために、そのような相談を持ちかけてきたわけです。

そこで私は、逆に「シリコンバレーから投資家を京都に呼んだらどうか」と提案しました。幸い、京都は観光地として人気が高く、外国人を呼び込む力があります。しかし、多くの方々は長期滞在せずに、数日で離れてしまうのです。もしこういう方々が長く滞在してくれれば、観光で終わらずに地元の中小企業を見て回ってくれるかもしれません。数日ではダメで、数カ月はいてもらう必要がある。

仕掛けのポイントは、投資家本人だけなく、その人が男性ならその奥さんにアピールすることです。魅力的な住まいや、奥さんが楽しめる場所、そして子どものためにインターナショナルスクールを充実させれば、奥さんは京都に住みたいと思うかもしれませんし、投資家もそれに従うでしょう。

同じことは、東京でもできる可能性があります。投資家と家族が、最高の東京ライフを過ごせる環境を用意するのです。今は、ノートパソコンとスマホがあれば、どこででも仕事ができます。ですから、投資家やビジネスパーソン本人だけでなく、その家族が魅力的で、わくわくできるような楽しい場所を用意することができれば、海外から優秀な人たちが集まる可能性があるのです。ポイントは、「海外の投資家・ビジネスパーソンの意思決定は、家族の意向で決まる」ということを念頭に入れることです。

成長している地域とのネットワークをつくる

一般に日本に来てほしい外国人というと、欧米人をイメージしがちかもしれません。もちろんこういった方々にも来て欲しいですが、私がこれから日本に来てほしい、あるいは来る数が増えるだろうと期待しているのは、例えばインド人やインドネシア人です。なぜなら、いずれも今、成長している国だからです。

カリフォルニア大学バークレー校のアナリー・サクセニアン教授は、「トランスナショナル・コミュニティ」という考え方を述べています。例えば、台湾の新竹が「台湾のシリコンバレー」と呼ばれるほど成功している理由は、シリコンバレーと台湾との間にコミュニティができているからです。台湾からスタンフォード大学に留学して、シリコンバレーで起業して成功した人たちが、新竹とシリコンバレーを行き来するうちに、国境をまたいだコミュニティが生まれ、ビジネスを生み出しているのです。

ここで重要なことは、そのコミュニティを通じて成長している他の地域のダイナミズムをうまく取り込むことです。経営学や生物学には、「エコシステムは単体で成長しようとしてもうまくいかないので、どこか他の伸びているところのダイナミズムを活用する」という考え方があります。例えば、シンガポールが成長している背景には、高成長している中国のマーケットの影響があります。同じように東京も、今後の成長が見込めるインドやインドネシアのマーケットと連携できるようなハブになるといいのではないかと思います。

そこで必要なのは、先ほどの「家族ぐるみでの住環境」です。そういう人たちに東京駅周辺で働いてもらうには、例えば、東京駅から歩ける神田駅近辺にでも、インド人街やインドネシア人街をつくるといいかもしれません。外国人に定住してもらうには、母国のカルチャーのあるコミュニティが欠かせないからです。実際、多様性が進んでいるトロントに行くと、市内の様々なところにさまざまな外国人のコミュニティがあります。トロントの街づくりは東京の未来を考えるうえでヒントになるでしょう。

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