2018/02/13 濱口 秀司 氏イノベーションが生まれる都市・オフィス空間の設計 第3回 イノベーションが生まれるオフィス空間とは

ビジネスデザイナー monogoto代表

濱口 秀司 氏

松下電工(現パナソニック)にてR&Dおよび研究企画に従事し、全社戦略投資案件の意思決定分析を担当。1998年から米国のデザインコンサルティング会社、Zibaに参画。現在はZibaのエグゼクティブフェローを務めながら自身の実験会社「monogoto」を米国ポートランドに立ち上げ、ビジネスデザイン分野にフォーカスした活動を行っている。

自ら設計に携わったZiba本社ビル

東京の真ん中にビルを建てる場合、快適さを追求するのであれば、シリコンバレーのファンドが好きなビルなどいくらでもつくれるでしょう。しかし、本当にイノベーションを起こしたいというのであれば、そのための設計をしなければいけません。これまで話したようなことは全て考えておかないと、出来上がるのは普通のビルです。

バイアスを受けたくないので他のビルのことは全くわかりませんが、自分が関わったビルでいえば、Zibaの本社ビルは、半分は僕が建てたと言われるくらい設計に関わっています。このビルの特徴は、総床面積の半分がプロジェクトルームに充てられていることです。全部で30室あるので、プロジェクトを同時に30個動かすことができます。その分、執務エリアはアメリカの会社としてはものすごく狭く、1人当たり5フィート(約1.5メートル)の机に袖机が1つ付いているだけです。エグゼクティブのために扉の付いた部屋もなく、完全にオープンです。

その意味は、「自分の机で仕事をするな」ということです。我々の仕事はプロジェクトベースなので、自分の机ですることは旅費精算や書類を読んだりすることだけで、いなければいけない場所はプロジェクトルームなのです。プロジェクトをやっている間は、ずっと同じプロジェクトルームで必ずミーティングを行い、全ての情報はその部屋に置き、プレゼンテーションは全てその部屋の壁に貼る、というルールになっているのです。カンファレンスコールはその部屋から行い、そのプロジェクトについて一人で考えごとをする時もその部屋で行います。情報が全て1つの部屋に集約されるので、何をするにもすぐにジャンプスタートができます。普通のオフィスビルはセキュアゾーンをつくって外部から人が入れないようにしますが、このビルでは、クライアントは直接プロジェクトルームに入れるようになっています。また、プロジェクト期間中はずっと同じプロジェクトルームを使用するので、会議室を予約する手間が一切なくなります。プロジェクトが終わったら、プロジェクトルームは原状復帰をして次のプロジェクトに渡します。

プロジェクトの進め方にもルールを設定してあります。プロジェクトの初日から毎日、その日がプロジェクトの終わりだったら何をプレゼンテーションするのか、その内容を毎日プロジェクトルームの壁に貼り出すこと。こうすることで、僕自身がいつでもプロジェクトの状況を把握することができます。すると、休日に誰もいないプロジェクトルームを一つひとつ回っていくことで、2時間で状況を理解して指示を出すことができるんです。

プレゼンテーション資料や部屋の壁に貼られているものや様子を見ると、論理的に考えているケースと、直観に触れているケースがあることがわかります。例えば、壁に数字を用いたデータ類が貼っていれば論理的に考えていて、写真や絵が貼ってあれば感覚的に考えているということ。一方だけに偏っているとよくないので、その様子を見た上で的確なアドバイスを出すことができます。

プロジェクトの状況をオンラインで共有する方法もありますが、その方が効率は悪い。実際に目で見ることのできる情報量と、ディスプレイ上で見える情報量では、一覧性がまったく異なりますから。プロジェクトルームの壁を見て歩ければ雰囲気も含めて確認できますが、パソコンからデータを探って同じことを把握しようとしたら、何日もかかってしまいます。僕は全てのプロジェクトの責任を持っていたので、同時並行で40〜50のプロジェクトのクオリティを全て担保しなければいけません。それを効率的にできるように設計したのです。

システム管理からウォールームへ

このようなビルを設計するに至った背景を説明しましょう。1999年から2000年にかけて、Zibaが業務管理システムを導入しようとしました。プロジェクトのガントチャートを書き、判断基準を決めて管理すると、リソースが何%空いているということがわかるので、その数値をもとにスタッフをプロジェクトから別のプロジェクトへと動かすようなシステム管理を入れようとしたのです。そのために、博士号を持った専門家を3人雇い、非常に高額なソフトウェアを買ってやり始めました。しかし、私は最初から、このやり方ではうまくいくはずがないと思っていました。発想はいつ生まれるかわからないし、そのアンコントロールなところをドライブしないといけず、このやり方のままでは破綻すると。ファウンダーにも進言したのですが、実際に破綻し始めるのを見て、そのバックプランとして考えたのがウォールームという発想でした。

もともと倉庫だった2つめの本社ビルの最上階(屋根裏)に1つ部屋を作ることからはじめました。そして、その部屋に全ての情報を集めて、毎日考えて答えを出すのです。よく、情報を集めているうちにパッとすごいことを思いつく、と言われますが、そんなことは絶対起きません。業務管理システムはそれと同じ考え方で、僕はそれと全く逆の発想をしました。毎日夕方に必ずその日の結論を出す。出すものはアイデアと、なぜそれが強力なのかというロジックの2つです。それを全員が考えて、チームリーダーがそれをまとめてその日の結論を毎日出すことをルールにしました。それが、業務管理システムに対抗するプロセスマネジメントです。この結果、どのプロジェクトも大成功しました。するとウォールームは面白いという話になり、徐々に拡張されていき、僕も運営のルールをつくり始めて、次のビルを造る時には、ウォールームをコアにしようと考えていました。それを実現したのがこのビルになります。

オフィスの話になると、よく、一緒に食事をしたり、出会ったりする場所が必要だと言われたりしますが、その背景には、イノベーションはランダムに起こると思っている節があります。そんな考え方で当たるわけがない、というのが僕の感覚です。

企画を良くするための設計はします。以前のビルでは、食堂に行くために必ずある特定のスペースを通らなければいけないことに気づきました。この場所は会社の中の情報のハブになると思い、そこをクライアントへのプレゼンテーションを事前に展示する場所にしました。そして、プロジェクトチームのメンバーは、昼食時にそこに立っているルールにしました。そうすると、クライアントにプレゼンする前に、「これではだめだ」「もっとこうすべき」など、社内から集中砲火を浴びることになり、提案内容のブラッシュアップにつながりました。

僕が言いたいのは、偶発性に頼るのではなく、目的を踏まえてしっかりと考えないと決してうまくいかないということです。Ziba本社ビルの場合は、会社のカルチャーや仕事のプロセス、過去の歴史を踏まえてこういう設計をしています。ここまで述べてきたことを参考に、東京のど真ん中でイノベーションを確実に起こすためにはどのような設計が必要なのか、ぜひしっかりと検討してほしいと思います。

Editors’ INSIGHT

多種多様なプロジェクトを通して、戦術的イノベーションを生み出す手法を確立されている濱口さんのお話は、我々の探求する「都市のあるべき姿」の「探求手法」に対して、非常に大きなヒントとなりました。また、「ウォールーム」の作り方、その中の情報の見える化の考え方は、街づくりに通底するものだと思います。
東京という刺激の多い都市の中で、如何に「都市のあるべき姿」を探求するか。バイアスに捉われない視点で探求を続けたいと思います。

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