2017/11/20 藤本 あゆみ 氏「個人に合った働き方」を選択できる制度・環境とは? 第3回 オンラインでできること、オフラインでしかできないこと

at Will Work 代表理事

藤本 あゆみ 氏

東京経済大学卒業。2002年、株式会社キャリアデザインセンターに入社し、求人広告媒体の営業に従事。入社3年目に、当時最年少でマネジャーに昇進。07年グーグルに転職。Women Willプロジェクトのパートナー担当などを経て、15年に退職。16年一般財団法人at Will Workを設立。並行して、株式会社お金のデザインでマーケティング・広報を担当。

メルカリがリモートワークを禁止した理由

デジタルテクノロジーの進化により、リモートワークの可能性はますます広がっています。それでも、全ての仕事がデジタルになることはないと言われています。グーグルでは、どんなに国が離れているプロジェクトでも、できれば四半期に1回、少なくとも半年〜1年に1回は、必ず全員が顔を合わせて働くようにしていました。やはり、どれだけテクノロジーが発達しても、リアルなコミュニケーションに勝るものはありません。ですから、人が集う場所というのは、とても大事だと思っています。

そのため、グーグルにあったような、社員が自由に利用できるオープンスペースを、お金のデザインでもつくりました。オフィスにいると、どうしても自分だけのセキュアな場所で仕事をしがちです。それだけに、他の人と交流するための場を意図的につくることが大切です。

先日、メルカリの取締役社長兼COOである小泉文明氏と対談する機会がありましたが、同社ではリモートワークを禁止しています。理由は、会社の今のフェーズでは、社員が顔を突き合わせて働くことが大事だからだそうです。オフィスには、そのための場所がたくさん用意されていて、逆に会議室は少なく、社外の人とコンフィデンシャルな話をするためだけに使われているそうです。お金のデザインでも、打ち合わせはなるべくオープンスペースでするようにしています。そうすることで、たまたま通りかかった人でも、打ち合わせの内容に興味があれば参加でき、そこから新しいアイデアが生まれる可能性があります。こういう機会は、リアルな場でしかできないものです。オンラインで「いつでもどうぞ」と言われても、入っていくことはなかなか難しいでしょう。

リアルな場でしかできないものに雑談があります。オンライン会議では、どうしても効率よく進めようとしてしまい、雑談する余地はあまりありません。それに対して、オフラインの会議では雑談が多いですよね。でも、それによって、会議のメンバーが今やっていることや考えていることなどを知ることができるのが、オフラインのいいところです。コワーキングスペースを提供するWeWorkのニューヨークのオフィスを見に行った時に、単なるスタートアップのためのコワーキングスペースではなく、大手企業がどんどん入ってきていて、雑談を生み出すための場になっているという話を聞き、雑談のための場の必要性を改めて感じました。

これからのオフィスビルにつくってほしいもの

これからのオフィスビルにぜひ提案したいのは、誰でも使える社員食堂をつくることです。グーグルの社食は有名ですが、その一番の目的は、社員同士のコミュニケーションを活性化させることです。実際、たまたま社食で誰かと会って、料理を取る列に並びながら「そういえば」と話かけて、「今度打ち合わせしよう」という流れになりやすい。それに、会議室だと堅くなりますが、ご飯を食べている時は、それほど堅くなりません。社食のように、コンフィデンシャルでありながら交流が生まれやすい場所は、意外と日本に少ないのです。ただ、社食を各社が自前でつくるのは大変なので、誰もが使用料を払えば食事ができるスペースがあると、社外の人との交流もできて、とてもいいと思います。例えば、ヤフーが都心(千代田区紀尾井町)につくったコワーキングスペース「LODGE(ロッジ)」は、社外にも解放されていて、オープンなコラボレーションを生むための空間になっています。

快適に働く上で、食生活はとても大切だと思います。グーグルでは、豊富な野菜とバランスの取れた食事をいつでも食べることができました。私はグーグルを退職して直ぐに体調を崩しました。その時に、「普通にご飯を食べることは、こんなに難しいことなんだ」と改めて感じました。

グーグルのフードマネジャーのミッションは、社員の寿命を延ばすことと言われています。健康的な食事はもちろん、そのためのアドバイスもしてくれます。心身ともに健康で働くことができれば、成果につながります。

セキュアで仕事も交流もできる場の必要性

グーグルやWeWorkにはカフェやミニバーなどがあり、そこにはちょっとしたスナックも置いてあります。そういう場所に、ちょっと気晴らしに行って、他の人と雑談をすることができます。何か飲んだり食べたりする場を共有できると、いろいろなことが生まれやすいのではないかと思います。このような、セキュアでありながら、オープンな場所を用意できるといいのではないでしょうか。

日本には、コワーキングスペースはたくさんありますが、一人で集中して作業するためのスペースが多く、交流できるような場はあまりありません。一方、カフェで仕事はできなくはないですが、やりづらい点も多々あります。誰に見られているかわかりませんし、電話はできませんし、Wi-Fi環境もセキュアとは言えません。そういう意味でも、セキュアで、仕事ができて交流もできるようなスペースというのは非常に重要だと思います。

また、リモートワークが会社から推奨されても、自宅では働けないという人は少なくありません。かといって、毎朝会社に行くことはしたくない、という場合に、自宅や会社の駅近くにセキュアで仕事も交流もできるスペースがあると、必要に応じて自社オフィスや客先にも行きやすいので、とてもいいと思います。

交流する文化を根づかせるには

オープンスペースは大事ですが、単にラウンジのような場所を用意するだけでは、交流は生まれません。ニューヨークに、レストランやカフェの空き時間をコワーキングスペースとして解放する「Spacious(スペーシャス)」というサービスがあります。個人事業主が仕事をするために利用していますが、とても静かで、あまり交流は生まれていません。このように、単に仕事をする場所という目的を与えてしまうと、それ以外の使われ方はなかなか出てきません。その場所に、どのような目的やコンセプトを持たせるかによって、使われ方は変わってきます。

例えば先ほどのスナックなどが置いてある場所は、ただ飲食の場所を提供するだけでなく、そこを交流の場として根づかせるような工夫をしています。例えば、新しい人が入ってきた時には、単に「ここはスナックを食べる場所」と説明するのではなく、「みんなで交流する場所なんだよ」と説明します。そうすることで、みんながそう認識するようになるので、仮にスナックを取りに行ったとしても、そこで誰かと話そうという気持ちになります。このように、初めからその場所のコンセプトをきちんと位置づけて、使い方についてしっかりと説明することが大事だと思います。その役割を、WeWorkではコミュニティマネジャーが担っています。社内の場合には、コミュニケーションの得意な人たちが、アンバサダー(大使)となって自分の使い方を紹介するだけでも、ずいぶん違うと思います。

お金のデザインでも、2016年7月にオフィスを移転した際に、ちょっとしたカフェのようなオープンスペースをつくったのですが、初めは戸惑う人も多くいました。テクノロジー業界以外での経験が長い人たちもいて、その人たちからすると「そういうスペースよりも、もっとオフィスエリアを広くした方がいい」という意見になります。そこで私たちは、オープンスペースがいかに大事かをしっかりと説明して、使い方も紹介しました。例えば、その場所を使って全社会議を開いてもらったりもしました。そうすると、今まではコンフィデンシャルに行ってきた会議も、オープンにしても問題ないことがわかったりします。その結果、みんな次第に慣れてきて、ミーティングなどでよく使われるようになりました。また、移転時にパーティーを開きましたが、これも初めはなかなか同意を得られなくて。でも、最初は遠巻きに見ていた人たちも、何回か行ううちに交流の仕方がわかってきて、今では当たり前のようにパーティーを開いています。これらの経験から、オープンスペースの使い方を発信することで、一から新しい文化をつくることができることがわかりました。

こうした新しい文化を企業内に定着させる際に注意したいのは、まず自社のアイデンティティや文化を再定義して、自分たちが何を大事にしているのかを明らかにすることです。それが明確ではない状態で、新しい文化を上塗りしようとすると、反発を受けます。また、初めから全社に展開しようとしないこと。最初は、あえてやりたい人たちを集めて小さく始める。そして、何が良くて、何がダメなのかをチューニングしながら進めていくのです。細かい話を挙げれば、置いておくスナックはクッキーにするかせんべいか、ということだけでも違ってきます。せんべいの方がいいのにクッキーしかないと、交流がしぼんでしまうこともあるのです。やっている人たちは、自分たちが楽しくなってくると、どんどん周囲に発信してくれるようになります。ですから、少しずつ手直しをしながら、じわじわと広げていくやり方をおすすめします。

Editors’ INSIGHT

働き方と働く場所の関係性に注目が集まっています。コワーキングスペース、リモートワークなどのキーワードを目にする機会が増え、オフィス環境のあり方を再考する流れが強くなっているように感じます。
しかし、オープンスペースを設置さえすれば新しい働き方が生まれる、という単純なことではありません。藤本さんは、そのオープンスペースがどういう目的で作られたのか、どういう使い方をしてほしいのか社員に共通認識を持たせ自由に参加してもらうことで、オープンスペースを新しい企業文化として根付かせました。
オフィス環境を変えることは新しい文化をつくることと同じで、根付かせるための活動が必要不可欠です。「自社のアイデンティティや文化を再定義して、自分たちが何を大事にしているのか」を深く問い直すことによって初めて、藤本さんのように、働き方を考え、行動に移す原動力が生まれるのだと感じました。

SNS

公式SNSアカウント

TOKYO TOKIWABASHI 2027に関する最新情報は、
Marunouchi.comの
公式Twitter・公式Facebookページで発信しています。