2017/09/19 青砥 瑞人 氏脳科学から紐解く「クリエイティブな場」の作り方 第3回 脳を活性化するための環境とは

DAncing Einsteinファウンダー CEO

青砥 瑞人 氏

米国UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)神経科学学部卒業。帰国後、2014年にDAncing Einsteinを設立。「ドーパミン(DA)が溢れてワクワクが止まらない新しい教育」の創造を目指して、さまざまな活動を行っている。

クリエイティビティの重要性は、今後一層高まる

いまは人工知能が注目されていますが、今後、人工知能が発達すればするほど、クリエイティビティと言われるような脳の働きはますます重要視されるようになっていくことが、脳神経科学の見地から予測できます。

人工知能はすでに人より優れた点もありますが、そうでない点も多くあります。現在人工知能が特に優れている点は、言語化や符号化が可能な情報の処理です。言語化や符号化された情報は、人工知能が複雑な統計処理をもとにアウトプットするだけでなく、勝手に学習していくことも可能です。しかし一方で、言語化や符号化されない情報は、そもそも人工知能の処理対象になりません。

人のクリエイティビティに必要な情報とは、一体何でしょう。人の心を動かすものとは、一体何なのでしょうか。これらの抽象的な概念は非常に言語化や符号化しづらく、人工知能が処理することが非常に困難な部分です。

クリエイティビティを発揮している脳は、まさにこの言語化・符号化の困難な情報を巧みに利用し、現段階では到底パターン化できるとは思えない情報処理をしている状態です。現代の脳神経科学の知見により、どんな脳の状態でクリエイティビティが発揮されるのか、それが少しずつ明らかになってきています。しかし、解明されればされるだけ、そのインプットの言語化・符号化の困難さ、そしてそのインプットの処理の難解さ、さらにインプットを学習させる仕組みの難解さにぶち当たります。よって、人工知能がいわゆる人と同様のクリエイティビティを発揮するようになるには、まだまだ先のことでしょう。

人の脳の強みは、抽象的な情報の処理を、言語化・符号化が可能な情報処理と複雑な関係性をもちながら共存させていること。そして、言語化・符号化の情報処理の難度に関わらない無数の軸をもっていることです。人工知能の「アルファ碁」に碁では勝てませんが、人は碁も打て、音楽で涙を流し、コメディで笑い、食べ物をおいしいと感じ、食べ物を養分に変え、その養分を考える力に変えるなどと、とてつもなく複雑な奇跡的な処理の連続をあまりにも当然のように行います。それは生命の素晴らしさであり、そもそもの有機物由来の人と無機物ベースの人工知能を比較することすらナンセンスには感じます。

普段と異なる脳状態をつくる

では、最新の脳神経科学の見地からはどんなクリエイティビティを発揮しうる脳とはどのような状態であるかを考えてみましょう。まず前提として、無から有は生まれません。クリエイティブなものを発想する脳があり、脳はその脳内にある情報を処理して、クリエイティブなものをアウトプットします。

脳にある情報を記憶といいますが、人の脳には大きく、陳述記憶と非陳述記憶とがあります。陳述記憶とは言語化・符号化されやすい情報の記憶、非陳述記憶とは言語化・符号化されづらい情報の記憶です。ただしそんな単純なものではなく、陳述記憶にも非陳述記憶にも様々な種類が存在しますし、その保存の場所も、保存のされ方も様々だということは知っておいてください。

新しい発想を生むためには、かなりの記憶バンクを脳に持っておく必要があります。それは勉強をして手に入れるような陳述記憶だけでなく非陳述記憶も当然重要。両者共に多様な記憶バンクを形成することが不可欠です。

その多様な記憶バンクに加えて、多くの継続的な学習や研究を重ねることにより、ある発想のもとになる専門性などの「軸」となるような神経回路をもつ必要があります。専門領域における脳の神経回路は何回も反復して使われることにより、情報処理速度が増し、他の情報と新結合しやすくなる利点があります。

しかし、それだけでもダメです。特に重要で忘れられがちなのは、脳の記憶バンクから記憶を引き出す際に、脳のコンディションへ変化を与えるということです。毎日ルーティンで同じことを行うことの有用性もありますが、そうすると使われる脳の情報処理にもバイアスがかかり、いつも同じような脳の記憶バンクから情報を引き出そうとするため、どんなに多様な記憶バンクや軸となる神経回路があろうと、クリエイティブな脳内の新結合が起こりません。

脳に多様な記憶バンクを持ち、軸となる専門的脳回路を形成したうえで、いかに脳の記憶バンクを通常と異なる状態へと変化をつけることができるかということが、クリエイティブには必要なことなのです。

あるノーベル賞受賞者は着想を得た瞬間について、「何年もずっと研究してきたが、全然閃かず、妻と3カ月バカンスに行って、帰ってきて研究を再開した途端に閃いた」と語りました。これは研究という強い軸となる回路があり、その軸を保持したまま、3カ月のバカンスにより、普段使われない脳の記憶バンクや脳のコンディションが少しずつ作られたと考えられます。その変化した脳の状態、今までと異なった脳の状態が、新しい閃きに繋がったのでしょう。

脳の状態を変えるための環境づくり

誰もが3カ月のバカンスをとる必要はありませんが、いつもと違う脳の状態を意識することは大切です。例えば、寝て起きた瞬間。脳は寝ている時と起きている時で違う脳のモードなので、寝起きの状態は新しい発想にはもってこいなのです。そして、それは脳神経科学的にとても理にかなっています。

僕はこの脳のコンディションを意識的に変化させて仕事をしています。とりわけ発想、閃きを求められる時、まずその閃きに必要な幅広いインプットをし、強引にアウトプットを作ろうとします。しかしなかなかいいものは出ません。そのもやもやとした期間を数週間、長い時は1カ月以上悶々とやり続けます。そして、ルーティン化しているお昼のジムを効果的に使います。ジムでは無酸素運動をこれでもかというほど続け、自分を追い込みます。すると、追い込まれた脳は、普段使わない脳をガンガン使う。そして、トレーニング後に、ジムのサウナに行きます。熱いサウナのなかで脳内の交感神経を優位にして発汗するとともに、サウナを快感と思う僕の脳ではエンドルフィンが作られます。さらに、トレーニングでいじめられた身体をなだめるためにセロトニン、エンケファリンなどの神経伝達物質も脳にフローしていく。とても通常の脳状態とは言えません。しかしそんなときこそチャンスなのです。ここで、これまで悶々とモヤモヤ考えてきたことを脳内に張り巡らせます。これまでたくさん考えてきたからこそ、サウナなどでも、脳内でいろんなことが思い描けるのです。

このように、普段と異なる脳の状態は意識的につくることができます。睡眠、運動、お風呂、サウナなど極端なことをしなくても、空間や環境の意識的な変化によって、クリエイティビティを高められる可能性があります。オフィス内での移動、あるいはいつもとは違う人と対話してみるなど、やれることはいろいろありそうですね。あえて嫌いな人と話してみるのも、脳にとってはいい刺激になるかもしれません。

これからのオフィスの価値とは

僕が考えるクリエイティブな発想に理想的なオフィスは、生理的に様々な脳のコンディションを生み出せる多様な異空間をもちあわせたオフィスです。AR、VR、プロジェクションマッピング、錯視などを巧みにコンビネーションし、視覚的異空間の実現が可能となったり、無音、暗闇など感覚刺激をシャットダウンさせる環境があったり、先述のように、ジムやサウナ、あるいは水への浮遊感や潜るという行為との組み合わせや、安全に逆さになれる状態が作れたら面白いですね。そんな状態で発想してみたいです。股の下から覗くと、錯視を生み知覚が変わるという、近年イグ・ノーベル賞を受賞した股のぞき効果のような様々な効果が生まれるかもしれませんね。

発想し出したらキリがないのですが、これからのオフィスは、単に人が集まる箱では機能しないでしょう。そのままだと恐らく、リモートオフィスの方がニーズを高めるはずです。これからのオフィスは、人と人とが一緒の空間にいることの価値を最大化させるための場づくりや、今後さらに求められるクリエイティビティなどの脳力を補助しうるオフィス環境など、オフィスの設計思想から転換が求められているのかもしれません。人が直接集まるからこそできること、オフィスだからこそできることはまだまだいっぱいありそうですね。そこを愚直に、科学的に考える事。これからは人の脳に見合ったデザイン、Human-Brain Centered Designの時代に突入するでしょう。とても楽しみですね。

Editors’ INSIGHT

脳神経学という科学的なアプローチから、より良いコミュニケーションの築き方や集中力の高め方など幅広くお話を伺うことが出来ました。
中でも印象的だったのは、集中力の高め方やクリエイティビティを高める環境・手法は個々人の特性によって異なるということと、発想力を高める為には脳を通常と異なる環境に持っていく必要があるということです。
いつでもどこでも働ける時代に求められるオフィス空間として、ただ作業を行う場の提供だけでなく、いかに個々人やその状況に合わせた最適な空間を提供できるか、今回のインタビューを踏まえながら模索していきたいと思います。

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